【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(23)がんの発症確率と被曝
国際放射線防護委員会の報告(ICRP 2007)は、累積被曝量100mSvによりがん致死率が0.5%増えるとの見解を示している。がんには早期の発見と処置で治癒の場合もあるので、すべてのがんの発生率は、致死率のおよそ2倍程度と考えられ、「100mSvの放射線量が約1%のがんの発生(罹患)確率が増す」と見積もられる。この確率を「宝くじ」で比較してみよう。
300円の宝くじ1枚の購入でも,特等の1億円を夢見る人もいる。その夢を「絶対あり得ない」と否定はできないし、実際に当選者はいる。だから放射線被曝に対する絶対安心論は、宝くじは当たらないから詐欺だ、という確率無視の主張に等しい。
がん罹患率の「確率1%」は、宝くじの下から2番目の5等賞3000円の当選率に相当している(例:平成27年末ジャンボなど)。この5等賞の当選確率を「絶対当たらないから安心」とはいえまい。
被曝線量が100mSv以上なら、それに比例して確率は増す(1Svなら10%増)。さらに、1回の宝くじの当選発表は1回限りだが、放射線被曝の「貧乏くじ」は、一旦購入(被曝)すると最初の当選発表(がん発見)以降も、がん発症の再当選の確率はついて回る。がん罹患率は他の生活因子でも約50%はあるので、被曝経験があれば、その累積被曝線量に応じた確率増加も考え、がんの早期発見・予防の努力が肝要であろう。