【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(4)放射線の種類と性質
放射性核種の崩壊で放出される放射線には、α線、β線、γ線があり、核種に固有のエネルギーをもつ。それらの特色を説明すると次のようになる。
α線の正体は、ヘリウム原子核が正電荷の状態で放出されたものだ。原子核なので重く、飛ぶ距離も短い。だから直進する透過力も弱く、1枚の薄紙で遮られる。一般に高い固有のエネルギーをもち、衝突で電離発生する高速電子も周囲の原子を電離するので、物質が電離される影響は、β線やγ線よりも格段に大きい。
β線の正体は、原子核から放出される高速電子だ。β線は放出されたエネルギーを使い切るまでの距離を飛ぶが、広く連続的なエネルギー分布をもつ点がα線やγ線と異なる。原子との衝突で生ずる電子も一部は原子を電離する。電離効果はα線より小さいが透過力はその数百倍で、厚いアルミニウム板で遮られる。
γ線の正体は、放射性核種が崩壊時に出す固有の短い波長を持つ電磁波だ。これが当たった物質の原子や分子を電離して消滅する。電離効果はβ線より小さいが、透過力は一番大きく、厚い鉛板でやっと遮られる。
「電離」は、電気的に中性で安定な原子や分子が電荷を帯びることだ。自然な電離もあるが、それと異なり、放射線は原子や分子をかき乱すように電離し、放射線の当たった物質を極めて不安定な状態にする。
放射線の防護には、その各特性を理解して対処することが重要だ。