【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(16)強化型(ブースト)原爆
ヒロシマ型原爆は、臨界量未満の半球形ウラン235を砲身の両端に別々に設置し、半球形ウラン235の中心に中性子発生装置を置き、爆薬で一方のウラン235半球を他方のウラン235半球と合体させて核分裂臨界量を超えさせることで核分裂連鎖反応を起こした。構造が簡単なので予備実験なしで投下できたが、核物質利用効率が低く、核分裂したのはウラン235の2%以下、98%以上は核分裂せずウラン235のまま飛散した。
一方、ナガサキ型原爆は臨界量未満の球形のプルトニウム239と球心部分に中性子発生装置を置き、外側に爆発速度の異なる複数の爆薬を特殊形状に設置し起爆した。これによって「爆縮レンズ」と呼ばれる現象で爆発衝撃波が内側のプルトニウム239を集中的に圧縮して高密度の臨界状態を生み出し、中心部の発生装置の中性子が一気に核分裂連鎖反応を起こした。ヒロシマ型より核物質利用効率はいいが、構造が複雑なため予備実験が必要で、核分裂したプルトニウム239も17%に過ぎなかった。(それでも、どちらの原爆も両市と人びとに壊滅的な被害を与えた。)
その後、各国で軽量核兵器として強化の工夫がされ、重水素-三重水素の核融合で生ずる高速中性子発生装置を内蔵して、核分裂の効率を上げたものが「強化型(ブースト)原爆」だ。核融合を利用してはいるが、爆発力は核分裂主体なので、核融合が爆発力の主体である水爆とは違う。