【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(1)形あるものは必ず滅す
原子核は何個かの中性子と何個かの陽子の集合体で、これらの組み合わせで何種類もの核種が存在する。原子核は、「形あるものは必ず滅す」という仏の教えのように自然の「寿命」があるはずだが、人間の限られた能力や技術の範囲では、原子核が壊れる変化を測定できないものがあり、これらは「非放射性(安定)核種」と呼ばれている。
自然に壊れる原子核は、その崩壊の際に放出する放射線(α線、β線、γ線など)を観測でき、その崩壊の平均寿命や半減期がわかる。これが「放射性(不安定)核種」である。
人間がその崩壊を観測できないほど安定な原子核は、寿命があるにしても、観測不能なほど無限大ということだ。
測定技術の進歩と科学者の努力によって、非放射性(安定)原子核とされていた元素周期表の83番のビスマス原子核Bi-209も、半減期が1.9×1019年という超長寿命でα崩壊する、という例などが出てくることがある。さらに将来、非放射性と見なされていた核種が無限大に近い半減期をもつ “準安定” 核種として報告されるかも知れない。
放射性(不安定)原子核の平均寿命を示すには、平均寿命に比例する半減期(平均寿命の0.693倍)がよく用いられる。
仏の教えはともかく、放射性(不安定)と非放射性(安定)とに大きく区別される自然界の原子核。さらに次回で見てみよう。