【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(3)質量数で決まる同位体
前回までは説明なしに、ビスマス209、セシウム137のように、元素名のビスマスやセシウムのあとに数値をつけた。この数値は「質量数」といい、原子核を構成する「陽子」と「中性子」の数の合計である。
原子核には、陽子と中性子の様ざまな数の組み合わせがあるが、陽子数で化学的な性質が定まるため、陽子数によって元素名が決まる。
同時に、同じ元素でも中性子数の異なるものがあり、元素名に質量数を付記してその核種(原子核の種類)を表す。たとえば、セシウムという元素はCsという元素記号で表されるが、原子核に含まれる中性子数の違いによって、Cs-137、Cs-134、Cs-133のように質量数をつけて表現する。このようなものを「同位体(同位元素)」という。
セシウムの同位体では、Cs-137は半減期が約30年の放射性核種で、Cs-134も放射性核種だが半減期は約2年である。一方、Cs-133は安定な非放射性同位体だ。それぞれ同数の陽子を持つ同じ元素だが、中性子数の違いで原子核の性質が異なる。
放射性の有無や質量数の相違以外、どの同位体も元素としての化学的ふるまいは同じであるため、化学的方法での相互分離はできず、質量差による特殊な方法で分離するしかない。
天然ウランの99.3%は核分裂し難いU-238で、核分裂し易く核燃料になるU-235は0.7%しかない。その分離・濃縮には莫大な費用がかかる。