【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(21)放射線障害の「確率的影響」
確率的影響は、一定量の放射線を受けても必ず影響が現れるとは限らないが「被曝線量が多くなるほど影響の現れる確率が高まる」現象で、「しきい値」はないと考えられている。各種のがんや白血病などの発症は確率的影響による。
被曝線量が多いから「症状が重くなる」のではなく、影響の現れる「確率が増す」(がんを発症しやすくなる)という点に注意してほしい。
被爆者を対象にした原爆傷害調査委員会(ABCC, 1947年から)の調査は、「治療せずに調査だけ」という非人道的なものではあったが、1975年に業務を引き継いだ放射線影響研究所の疫学的(統計的)調査とともに、国際放射線防護委員会(ICRP)の貴重な判断材料になっている。がんの確率的影響は、この原爆被爆者の症例や経過報告の調査が基本となり、統計的に意味のあるがんの増加は約100mSv以上の被曝で認められている。がん発症の最短の潜伏期は、白血病2年、甲状腺5年などとされ、それ以降に発症・増加するがんの例の多いことも分かっているのだが、こうした発症が被曝線量と比例した確率で現れるのが確率的影響である。
がんの発生確率が、低線量でも被曝線量に比例するという仮説に賛否はあるが、国際的には、100mSv以下の低線量でも比例関係を仮定するICRPの「直線しきい値なし」(LNT:Linear Non Threshold)の仮説が採用されている。