【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(14)ホールボディカウンター
内部被曝の原因となる放射線源が体内に侵入する経路は、飲食や呼吸が主だ。原爆被爆者のように火傷やガラス傷があれば皮膚からの侵入もある。体内に侵入した放射性核種の検出は、体外まで放射線が届くγ線以外は測定が困難だ。α線やβ線は体内の組織で吸収されるからである。
しかし、多くの放射性核種のα、β崩壊はγ線放出を伴うので、γ線を観測することで放射性核種を特定・定量できる。これは各γ線のエネルギーが核種ごとに特有の値を持つことを応用し、エネルギー値とピーク強度から割り出すのである。
人体内部全体のγ線測定が可能なホールボディカウンターは、精密なエネルギー分析回路を備えているため、外部からのγ線を防ぐ厚く大きい遮蔽体で囲まれた測定装置内に被験者を入れ、測定をおこなう。
だがホールボディカウンターで測定できない放射性核種もある。セシウム137と同様に核分裂の主成分のストロンチウム90(半減期29年)や、トリチウム3(半減期12年)はβ崩壊だけなのでγ線を測定できず、尿の化学分析でβ線放射能の半減期測定などから分析するしかない。
ヨウ素131(半減期8日)など短寿命の放射性核種が体内に入った場合、その核種の消滅後では、当初からの体内被曝の履歴を遡って追跡する手段はない。いったん体内に入った放射性核種の測定や追跡は厄介なので、その回避が最重要である。