【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(10)原子炉と放射性廃棄物
中性子を吸収したウラン235が起こす核分裂連鎖反応を、一定レベルになるよう調整して持続的にエネルギーを取り出そうというのが、日本の原発で使われている原子炉である。
原子炉内で生み出される核分裂生成物の種類は、原爆とほとんど変わらない。原子炉の運転が長期になれば短寿命の生成核種は減少するが、長寿命のそれは大量に蓄積していく。
核分裂で発生する放射線は、原子炉の容器や配管などの金属疲労を促して寿命を縮めるため、交換や廃炉が必要となる。核燃料の再処理では、ウラン235やプルトニウム238は生成核種から分離・再利用されるが、他の大部分は放射性廃棄物としてガラス固化し、地層内への保存が計画されている。けれどもその候補地選定ができず、困難を極めている。
福島原発事故では、原子炉の中身がすべて外部に飛散する事態は避けられたが、炉内に残る長寿命核分裂生成物の分離・浄化に困難が続いている。しかも浄化の目安は放射能ゼロではなく、許容濃度以下なら自然界への放流が規則で許されているため、自然環境中の放射性核種の総量が増加し続けているのが現状だ。
事故がなくても、原子炉では核分裂でわずかに生ずる細片核のトリチウム(三重水素)が半減期12年のため蓄積する。水素の放射性同位体なので酸素と結合し「水」となるため、他の放射性核種のようには化学的分離・除去ができず難問となっている。