【連載】知っておきたい放射線の豆知識 放射化学者 佐野博敏
(20)放射線の「確定的影響」
生物のからだは、物質が単純に集まったものではなく、多数の要素が有機的に関連して複雑なバランスを保っている。そのため放射線の影響の現れ方も、その解釈も多様である。
放射線の人体への影響には「確定的影響」と「確率的影響」がある。まず「確定的影響」についてだが、国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護基準では「一定量の放射線を受けると、確定的に影響が現れる」と規定している。
影響が現れる被曝放射線量を「しきい値」といい、その線量が「しきい値」以下なら影響はないが、「しきい値」を超えると必ず影響を受けるので「確定的」といわれている。
「しきい値」は被曝放射線量の大小にも左右されるが、放射線の影響を考えるとき、最初に概略の「しきい値」に留意しなければならない。
確定的影響では「しきい値」を超えた被曝放射線量が大きいほど臓器の細胞が破壊され、細胞の再生が難しいほどその障害・症状は重くなる。
原爆被爆者の経験した脱毛や不妊、白内障、造血機能障害などが確定的影響の例で、器官や被曝放射線量によっては死に至った人も多い。
放射線を浴びた影響には、確定的影響と、次回詳述の確率的影響の両方があるが、どちらか一方の影響だけを受けるのではない。例えば、確定的影響の「しきい値」以下でも、また確定的影響から回復した場合でも、なお確率的影響のリスクはある。