被爆者相談所および法人事務所
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【連載】 現場から見る東友会相談所の40年
相談員 村田未知子

第3回 ホンモノを知って、学べ

 「あなたは、『法令通知集』をどこまで読みましたか」。1982年11月頃、会議の後にみんなで食事に行ったとき、伊東壯さん(当時・東友会会長代行)に聞かれました。「いえ、まだ……」。ほろ酔いかげんがいっぺんに覚めました。
 「あなた方は被爆者のために、厚生省や東京都に交渉することも求められる。ホンモノを知って学ばないとそのとき戦えないよ」。
 『法令通知集』とは、当時の厚生省が監修していた『原爆被爆者関係法令通知集』のことです。ビニールの表紙600ページほどの分厚い書籍には、当時の原爆医療法と原爆特別措置法の条文とそれぞれの施行令、施行規則、施行についての厚生省令や行政官の指示・通達が掲載されています。
 「よぉーし!」。発憤して、この年の大晦日から正月三カ日ですべてを読み終えました。法律の条文と法律施行規則や通達をいちいち照合しながらチェックすることにとまどいましたが、やっとの思いで読み終えて「読んでいると、被爆者の運動史なんだと思いました」と伊東さんに報告しました。伊東さんは嬉しそうに、「そうなんだよ」と答えてくれました。
 難解な『法令通知集』ですが、被爆者手帳が受けられる範囲の拡大、健康管理手当の対象病名や所得制限の拡大などなど、被爆者が運動を積み上げて勝ち取ってきた成果を確認できる内容だとわかったのです。
 被爆者自身が運動で勝ち取った制度を徹底して活用していく。そこでわかった問題点の解決のため運動し、広がった制度をまた徹底活用する、そのなかで問題点を明らかにし、さらに運動を広げる――そのくり返しが被爆者運動だと気がつきました。その「徹底活用」には、私たち相談員の存在が不可欠なことも理解できました。

『原爆被爆者関係法令通知集』4訂版と8訂版を並べて置いた写真。
『法令通知集』の表紙。厚さは4訂版が約3センチ、8訂版が4センチで、掲載内容は膨大。

お父さんのお金まだですか

 1983年4月、「お父さんのお金、まだ出ないんですか」の声。葛飾区に住んでいたK男さんの妻からの電話でした。話を聞くと、十三回忌になる夫の遺族年金がいつ支給されるかとの問い合わせでした。12年前にK男さんは原爆症と厚生大臣が認めたがんで亡くなっていました。「国が認めた原爆症で亡くなった夫は戦死と同じだ。遺族年金がでるでしょう」というのです。
 「そうだ『法令通知集』には死没者への対策は何も書いてなかった」軍人・軍属には恩給があり、亡くなったとき遺族への扶助もあります。しかし、原爆で亡くなった人やその遺族に対して、国はいっさい補償していません。この事実を改めて思い知らされました。