被爆者相談所および法人事務所
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日本被団協「全国被爆二世実態調査」から

被爆二世としての意識はあり、健康の不安もあるが具体的な運動の組み立てには課題も……

 2021年11月、日本被団協結成60周年事業として2016年から実施された全国被爆二世実態調査の報告書が完成・発行されました。その内容について、調査・分析の中心になって活躍した昭和女子大学の八木良広助教に解説していただきました。

 2021年11月、全国被爆二世実態調査の結果を、報告書の完成と記者会見の実施を通して公表しました。この調査は、日本被団協によって2016年より着手されたもので、全国の被爆二世を対象とした調査としては初の試みとなりました。私は日本被団協の二世委員会より依頼を受けて、この調査の取りまとめを担当しました。ここでは、被爆二世としての意識や不安、健康状態、国や自治体への要望といった内容を中心に、結果の概要をご報告します。

八木やぎ良広よしひろさん
大学院生の頃より一貫して原爆被害の戦後史をテーマとした研究に従事。愛媛大学教育学部講師を経て、現在昭和女子大学現代教養学科助教。専門は、社会学、オーラル・ヒストリー(口述歴史)研究。

今回の調査の特徴

 2013年に、東友会は結成55周年事業の一環として、東京在住の被爆者および被爆二世を対象とした実態調査を実施しました。この時の調査にも私は他の研究者とともに調査結果の分析や報告書の作成等に関わりました。東友会の被爆二世調査では、被爆二世の暮らしや健康、被爆二世としての思いに関する意識・実態を明らかにするだけでなく、国と東京都の被爆二世政策に対する新たな改善要求案を提示しました。
 今回の調査では、東友会の調査とほぼ同様に、健康状態や被爆二世としての意識を問い、その結果を国や自治体への要求に反映させるとともに、被爆二世の活動・交流に役立てることを目的としました。この目的に設定した理由として、二世委員会の方々が、個々に抱えている健康状態とそれに関する不安は被爆二世全体ではどのような傾向にあるかを明らかにしたいという切なる思いを持っていたことが大きく関係しています。先述した報告書では、国や自治体への要求項目の提示までには至りませんでしたが、被爆二世の意識と実態を幅広く明らかにすることを目指しました。
 二つ目の特徴として、全国に住む被爆二世を調査対象者としました。実質的には地域の被爆者団体や被爆二世の会と直接的に、または間接的につながりのある被爆二世にアンケートへの回答を求めました。2016年11月末から2017年7月上旬までの期間に、郵送または手渡しといった方法で配りました。具体的にはアンケートを1万7567枚配布し、結果3422枚回収(回収率19.5%)することができました(実際に分析することができたのは、3417枚でした)。

「全国被爆二世実態調査 報告書」「日本原水爆被書者団体協議会(日本被団協)」の文字が書かれた、シンプルな表紙。
報告書の表紙

被爆二世としての意識

 被爆二世として意識することがあるかどうかを尋ねたところ、8割弱(78.8%)が「ある」と回答しました。具体的に意識する状況や場面を聞いたところ、図1の通りの結果が示されました。8月の式典や慰霊祭の開催、被爆者の証言活動の見聞、核兵器等に関する報道など、外在的な状況が上位を占め、自分や子どもの健康問題といった内在的な状況は全体的には5位以下でした。アンケートでは自由記述式設問も設け回答を求めましたが、日頃被爆二世として意識することはない場合であっても、何か関連することが起きた場合にはそのことを意識する・せざるをえない様子が記されていました。

図1 被爆二世として意識するとき
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
被爆二世として意識するとき
意識する状況や場面(選択肢) 回答割合
8月の式典・慰霊祭の開催 84.0%
被爆者の活動・証言の見聞 66.2%
原爆・核兵器の報道 61.4%
被爆・戦争体験の継承活動の見聞 48.5%
自分の健康問題 48.3%
原発問題の報道 44.0%
戦争・テロの報道 22.4%
自分の子どもの健康問題 15.8%
その他 10.9%

被爆二世としての不安・悩み

 被爆二世としての不安や悩みを抱えているのは、全体の約6割(60.3%)でした。不安や悩みの具体的内容として、特に自分の健康・放射線の影響を選択する人が多かったです(図2)。ただ、自由記述式回答も含めて結果を見てみると、回答には、被爆者、被爆二世、被爆三世それぞれに対する不安や悩みが密接に関わっていることが示されていました。被爆二世である自分、親、子どものそれぞれの身体的異常や病気が「遺伝」を経由して、世代を超える不安と苦悩として存在しているように思われます。

図2 被爆二世として不安・悩みを感じるとき
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
被爆二世として不安・悩みを感じるとき
不安・悩みを感じる場面(選択肢) 回答割合
自分の健康・放射線の影響 78.6%
父母の健康問題・介護 56.0%
自分の子どもへの放射線の影響 41.8%
差別・偏見 12.5%
その他 3.6%

被爆二世対象 健康診断の受診状況

 厚労省が被爆二世対策の一環として実施している健康診断に関して、受診している人(「毎回受診している」「何回か受診したことがある」の合計)は5割弱(47.5%)でした。受診していない人(51.3%)の理由について、約半数の人が受ける必要がないと回答しました(図3)。受ける必要がないその理由としては、勤め先の健診を受けているからが、6割弱でした(図4)。この結果には、今回の調査に回答した被爆二世の多くが働き世代であることが反映されています。

図3 健康診断を受けていない理由
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
健康診断を受けていない理由
理由(選択肢) 回答割合
受ける必要がない 50.2%
知らなかった 39.6%
無回答 6.3%
受けたくない 3.9%
図4 健康診断を受ける必要がない理由
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
健康診断を受ける必要がない理由.
理由(選択肢) 回答割合
勤め先の健診 57.5%
人間ドック 13.5%
自治体の健診 12.5%
慢性の病気で通院 8.8%
その他 6.1%
無回答 1.6%

被爆二世対象 がん検診の受診状況

 被爆二世対象のがん検診については、5割強(53.7%)が受診経験がなく、居住地域の自治体では実施されていないと答えた人は約2割(19.9%)でした。そしてがん検診が自治体で実施されていないと回答した人に、実施された場合受診するかどうか尋ねたところ、受診すると答えたのは約9割にのぼりました(図5)。
 一方受診しないと回答した人の理由としては、勤め先の検診を受けている人が約3割で最も多かったです(図6)。
 後述する国や自治体への要望と関わってきますが、一般健診と同様に、働き盛りの現役世代が引退後、被爆二世対策のがん検診を望むようになるのかどうか気になるところです。

図5 居住地域でがん検診が実施された場合受診するか
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
居住地域でがん検診が実施された場合受診するか
受診するか否か(選択肢) 回答割合
受診する 87.0%
受診しない 2.2%
わからない 8.2%
無回答 2.6%
図6 がん検診を受けない理由
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
がん検診を受けない理由
理由(選択肢) 回答割合
勤め先の健診 33.3%
人間ドック 6.7%
自治体の健診 6.7%
慢性の病気で通院 13.3%
その他 20.0%
無回答 20.0%

被爆二世の健康状態

 被爆二世の健康状態について、0歳から2歳の乳児期から20歳から64歳の成年期までを、経年変化としてみてみると、「ほぼ健康」の人の割合が小さくなりました(図7:乳児期50.7%から成年期35.7%)。また、通院(中)の人が13歳から19歳の青年期と成年期を比較すると、「一時的な病気での通院(中)」では約2倍に増え(3.6%から7.5%)、「慢性的な病気」では約3倍に(5.4%から17.6%)、そして「入院治療(中)」に関しては、0.7%から3.9%と5倍以上に増加しました。成年期では、「ほぼ健康」と「通院(中)」及び「入院治療(中)」の構成比が35.7%対29.0%で、ほぼ健康の割合が高かったものの、65歳以上の成熟期では同率となりました(6.3%対6.3%)。年齢を重ねるごとに、身体上の問題や病気を抱える人の割合が高くなっていることがわかります。
 各時期の健康状態・病気が親の被爆と関係していると思うかどうかについては、図8のように、乳児期から青年期までのほぼ同一の傾向が成年期に入って変化していました。「親の被爆が関係していると思う」に関して、青年期までは約2%でしたが、成年期では7.1%でした。また「わからない」については、成年期は青年期の約2倍でした(青年期11.7%、成年期20.9%)。そして、いずれの時期においても、「親の被爆が関係していると思わない」と「わからない」の割合は、「関係していると思う」よりも割合が高くなりました。
 病気を患う人の割合が加齢によって高くなっていることと、乳児期から成年期にかけて健康状態・病気と親の被爆との関係をめぐる意識を問う設問への回答者数が微増していることは関係しています。健康状態・病気と親の被爆との関係をめぐる問いへの回答は、がん等の特定の疾病に対して放射線の遺伝的影響があると認められていないことが回答結果に大きく関係したと考えられます。
 身体上の問題を病因と適切に関連づけ、医療従事者や自治体関係者等に提示可能な(公式に認定された)説明モデルがなければ、回答者は自ら取得した知識や認識、経験則に頼らざるを得ません。いずれの時期でも、「親の被爆が関係していると思わない」と「わからない」が、「関係していると思う」よりも多かったことは、以上のことが関係していると考えられます。

図7 乳児期から成熟期までの健康状態
乳児期から成熟期までの健康状態
生育期 ほぼ健康 一時的な病気で通院(中) 慢性的な病気で通院(中) 入院治療(中) 無回答
乳児期 50.7% 2.6% 3.7% 0.5% 42.4%
幼児期 49.9% 3.2% 4.1% 0.6% 42.2%
児童期 48.9% 3.7% 5.2% 0.6% 41.5%
青年期 48.9% 3.6% 5.4% 0.7% 41.4%
成年期 35.7% 7.5% 17.6% 3.9% 35.3%
成熟期 6.3% 1.0% 4.7% 0.6% 87.4%
図8 健康状態についての親の被爆との関係をめぐる意識
健康状態についての親の被爆との関係をめぐる意識
生育期 親の被爆が関係していると思う 親の被爆が関係していると思わない わからない 無回答
乳児期 1.9% 8.4% 10.0% 79.6%
幼児期 2.0% 8.5% 10.7% 78.8%
児童期 2.7% 8.8% 11.3% 77.2%
青年期 2.7% 8.6% 11.7% 77.0%
成年期 7.1% 10.8% 20.9% 61.1%
成熟期 1.3% 2.1% 4.4% 92.1%

被爆二世が子どもの健康状態について気になること

 被爆二世の子ども(被爆三世)の健康状態に関して気になることを、自由記述式回答で尋ねたところ、がんやアレルギー症状をはじめ、皮膚疾患、甲状腺異状などのさまざまな病名やそれを心配する声が多くあがりました。また、「いま現在は心配してない」、「健康である」と答える人もいました。これは、被爆三世の健康や被爆の影響を心配している人と、心配していない人に二分できるというものではなく、将来はわからないため心配がないとは言い切れないと考えられます。

国や自治体への要望

 被爆二世として国や自治体に要望することについては、医療費の助成が最も多く(48.7%)、被爆二世の健康手帳の発行(48.3%)、被爆二世がん検診の実施(41.9%)と続きました(図9)。
 他方、(本調査実施時には発効されていなかった)「核兵器禁止条約締結に向けた活動」(22.7%)や「平和行事・啓発活動の実施」(21.0%)を求める声は、相対的に少なかったです。
 自由記述式回答の結果でも同様の傾向が見られ、被爆二世自身の健康問題や生活保障に直結する内容を求める声が多く見られました。被爆二世が加齢に伴い心身の不調を抱えたり病気を患ったりしてきたこと、被爆者である親や兄弟姉妹がガンや重篤な病いにかかった、あるいは亡くなったことを受けて、放射線の遺伝的影響の発生の可能性を疑い、不安を感じてきたことが関係しています。また放射線の遺伝的影響に関しては、調査・研究の更なる推進や研究結果を含む情報の公開を求める人も比較的多かったです。

図9 被爆二世として国や自治体に求めること
以下は、スクリーンリーダー用にグラフを表になおしたものです。
被爆二世として国や自治体に求めること
求めること(選択肢) 回答割合
医療費の助成 48.7%
被爆二世の健康手帳の発行 48.3%
被爆二世がん検診の実施 41.9%
健康問題についての情報交換・学習・相談 36.4%
親の病気・介護の情報交換・学習・相談 25.5%
核兵器禁止条約締結に向けた活動 25.3%
被爆二世健康診断の項目の増加 22.7%
平和行事・啓発活動の実施 21.0%
非核平和都市宣言 19.6%
被爆二世としての要望特になし 7.2%
その他 2.3%

今後の課題

 最後に、今後の課題を2点示したいと思います。
 報告書の中で明らかにしたことはあくまで調査結果であって、この結果に基づいて国や自治体への要望を明確にしていく、被爆二世としての活動の方向性を明らかにして具体的に進めていくといったことは、残された大きな課題の一つです。
 また今回の調査は、全国の被爆二世を対象としたと言っても、アンケートを配布できたのは1万7567人でした。文字通り、全国に居住する被爆二世を対象とした調査を実施するには、国が主導するしか術はありません。
 二つ目の課題は、国に調査の実施を促していくことです。そのためには、まずは一つ目の課題に取り組む必要があるのではないかと考えています。