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【寄稿】
核兵器のない世界へ 被爆75年の世界の流れと運動
高草木博(日本原水協代表理事)

 2020年は被爆75年という節目の年。核兵器をめぐる世界の動きは、廃絶を求める潮流が飛躍的に大きくなる一方、核兵器を持ち続けようとする流れも依然存在し、両者が大きくせめぎ合っています。年頭にあたり、核兵器問題と運動の国際情勢に精通した高草木博さん(日本原水協代表理事)に、いまの世界の状況を綴っていただきました。

核兵器廃絶を世界のルールに

高草木たかくさきひろしさん
原水爆禁止日本協議会の代表理事。国際活動のベテランで、世界の反核運動にも詳しい。

 ことしも年明けとともに世界が固唾を呑むようなできごとが起こりました。米軍がイラクの首都バグダッドの空港で、イラン革命防衛隊の司令官を標的に武力攻撃を加えた事件です。アメリカは国連安保理事会常任理事国の席を占め、本来、「紛争の平和解決」という戦後国際社会の鉄則をもっとも厳格に守るべき立場のはずです。そのアメリカが、戦時でもないのに他国の領土で、国家幹部に対してであれ一般市民に対してであれ、武力で抹殺をはかるとは、およそ普通では考えられない蛮行です。まさに現代世界の病巣を目の当たりにする思いです。
 イランは直ちに報復を宣言・実行し、併せて「イラン核合意」で受け入れたウラン濃縮の制限にも制約されないことを発表しました。
 幸い、それ以上の攻撃は国際世論の圧力と双方の自制でとりあえず収まりました。しかし、この事件がイラク戦争をもはるかに超える殺りくと破壊、さらには核兵器の使用や新たな核兵器の拡散にもつながりかねない危険性を持っており、いまも終わってないことは、だれもが感じていると思います。
 報道では、ソレイマニ司令官に対するアメリカの武力攻撃は、国防総省がトランプ大統領に「一番極端なケースとして、実行しないことを前提に」示した選択肢だったといいます。トランプ大統領はそれを実行してしまったということになりますが、振り返ればアメリカの大統領はトランプ氏に限らず、危機が訪れるたびに「あらゆる選択肢が机上にある」と断言してきました。もちろん、核攻撃も含めてです。
 世界の反核平和の世論が簡単に核兵器の使用を許すものでないことは明白ですが、核保有の指導者たちはいつも武力攻撃を自制するわけではなく、「核兵器は使えない兵器」などとは考えてないことも明らかです。
 被爆から75年、被爆者はみずからの体験を語ることで、核兵器を廃絶しようと呼びかけ、署名を呼びかけ、行動してきました。人類の運命を握るこの問題を、一部の国、一部の指導者の手に委ねておくのでなく、核兵器の全面禁止廃絶を人類全体の合意とし、ルールとするために、いま世界が力を合わせ、行動する時だと思います。

2019年6月に米軍統合参謀本部が公開し、すぐ非公開になった「核作戦」と題する米軍の指針文書。小型核の使用や放射能下での作戦などが述べられている。

核兵器の禁止・廃絶は逆転できない世界の流れ

 広島・長崎の被爆からこれまで、原水爆禁止運動と被爆者は世界の運動と連帯してたくさんの変化を創り出してきました。世界にはなお1万4000発を超える核兵器が貯蔵・配備され、核大国はいまも「核兵器は安全の保証」と言い続けています。けれども他方で、核兵器廃絶はいまや国連でも核不拡散条約の会議でも、市民社会の世論の中でも圧倒的多数です。
 その象徴的な表れが核兵器禁止条約をめぐる動きです。禁止条約は2017年7月7日、国連の会議で賛成122、反対1の圧倒的大差で可決されました。現在、署名国は80、批准国は34カ国に達しています。批准が50カ国に達すれば90日の間をおいて発効します。アメリカをはじめ核大国がこぞって反対し、他の国に圧力をかけているので心配する向きもありますが、流れは止まりません。2019年12月、国連総会でおこなわれた決議採択でも核兵器禁止条約の促進は、賛成123、反対41、棄権16の大差で採択されました。
 もちろん反対41は少ない数ではありません。しかし内訳で見れば核保有国が9カ国中8カ国(北朝鮮は棄権)、核保有国以外のNATO加盟国が26カ国中で、残りも日本、韓国、オーストラリアなど、名うての「核の傘」への依存国でした。核大国からの圧力にもかかわらず、世界の圧倒的な国ぐには、確固として核兵器禁止を主張し続けているのです。

核兵器禁止条約が採択された瞬間の国連議場(2017年7月7日)
(写真は国際連合のウェブサイトから引用)

NPT再検討会議の焦点

 ことし4、5月にはニューヨークの国連本部で五年に一度の核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれます(4月27日~5月22日)。1970年に発効したNPTは、非核兵器国が核兵器を開発したり他の国から取得したりしない代わりに、核兵器国も核軍備競争を停止し、核軍備撤廃の効果的措置を交渉し、全面完全軍縮条約を結ぶという取引です。この核兵器国側がおこなった約束がNPT第六条です。
 この50年、イスラエル、インド、パキスタンはNPTに加わらず、条約外で核兵器を保有し、北朝鮮は脱退して核兵器を持つに至りましたが、当時、核兵器を持たなかった他のすべての国は非核兵器国として非核の立場を守ってきた(イランも含めてです)のですから、ことしのNPT再検討会議でも、第六条や第六条に関連して核兵器国側がこれまで受け入れてきた核兵器廃絶の合意に焦点が当てられるのは当然です。
 前回2015年の再検討会議では、一致して第六条の履行を迫る非同盟運動、新アジェンダ連合、中南米、東南アジア、南太平洋、中東、アフリカなどの国家連合などを前に、逃げ場を失った米、英、カナダの3カ国が、中東非核・非大量破壊兵器地帯創設の会議開催をめぐる意見の違いに難癖をつけて最終文書でのコンセンサス合意を妨げました。
 この問題は、中東の23の国ぐにが非核兵器地帯の創設に賛成しているのに、イスラエル一国がこれに反対し、アメリカが肩をもってコンセンサス合意を妨げている問題です。この問題でも、中東23カ国は2019年11月、合意の進展を妨げられないよう、多数決をルールとする国連に議論の場を移し、第一回目の会議をおこないました。ここでも中東諸国はイランを含め、非核化に努力しているのですから、アメリカは難癖をつけるのでなく、その努力を支援すべきなのです。
 毎年の国連決議の票数は、年ごとにそう大きく変わるわけではありませんが、核兵器廃絶への圧倒的多数の国の結集は、こういう一つひとつのたたかいを通じて勝ち取られています。それを知っておくことが大事だとおもいます。

原水爆禁止世界大会をニューヨークで

 この流れを見ればわかるように核兵器禁止条約は、たくさんの国の政府が署名し、批准する行動を起こしており、発効は時間の問題です。ですが、それだけで核兵器のない世界が実現するわけではありません。多くの国際政治のリーダーが強調してきたことですが、核兵器廃絶は人類の生存のためのたたかいであり、その実現には、政府だけでなくすべての国の国民が国際政治の主権者として関わり、それぞれの政府を決断させるべきなのです。
 発効する禁止条約が真に実効を持ち、核兵器の廃絶へと世界をリードできるかどうかは、とりわけ核保有国や「核の傘」に依存する日本のような国で、国民が政府を核兵器禁止・廃絶の方向に動かせるかどうかにかかっています。
 私たちも2019年、アメリカや国際平和団体から、日本の運動が続けてきた原水爆禁止世界大会を、NPT再検討会議の前夜、ニューヨークで開催しようとの提案を受けたとき、心からそれを歓迎しました。その提案には、大会は、日本の運動が掲げてきたように、核戦争阻止、核兵器全面禁止・廃絶、被爆者援護・連帯を目標とした大会です、と書かれていました。また、大会は人類の生存に関わるもう一つの課題、気候変動の阻止と反転、社会的経済的正義の実現を掲げ、そのための運動を、核兵器廃絶のたたかいに合流させるものです。
 それは何よりも、これまで日本の原水爆禁止運動がしてきたように、市民社会の行動で核兵器の廃絶へ、世界を動かそうとの決意の表れです。

核兵器禁止条約に署名・批准し世界の先頭に立つ日本を

 このプロセスでも、私たちは被爆者とともに先頭に立ちたいと願っています。
 日本は唯一の被爆国ですが、それだけではありません。国民が、戦争と武力を放棄した憲法を選び、核兵器をつくらず、持たず、持ち込ませない「非核三原則」を国会決議とさせている国です。核兵器の禁止・廃絶を、との被爆者の訴えに、1000万を超える人びとが署名し、それを7割を超える全国の自治体首長が支持し、400を超える地方自治体が国に対して禁止条約に調印・批准するよう求めています。さらにいま、すべての野党が禁止条約に入るべきという立場をとり、あるいは接近しています。
 必要なことはこの動きを、「そうだ、その道だ」という国民的な決断へと動かすことだと思います。「命あるうちに核兵器の廃絶を」――被爆75年のことし、被爆者のこの願いを実らせるために前進しましょう。

新宿駅西口で、署名板を持ち署名をよびかける、たすきを掛けた被爆者たち。
たゆまず署名運動
2019年5月、NPT(核不拡散条約)再検討会議第3回準備委員会が開催中の国連本部にて。第3回準備委員会のサイード議長と、被団協の代表など関係者らが署名の目録を持ちカメラに向かってポーズをとっている。
国連に署名を提出