【特集】 被爆二世の制度・施策 制度の内容と成り立ちの歴史
2012年3月末時点で、都内に住む被爆者は6758人、被爆二世は6495人でした。2013年度中に、被爆二世の人数が被爆者を超えると推測されます。東友会のよびかけによって、2012年4月から東京に住む被爆二世・三世の交流会がつづけられ、2013年4月に被爆二世・三世の会の発足をめざしています。
最近も東京都が、東友会の要請に応えて被爆二世に対する施策を大きく前進させました(関連記事:東友会のとりくみと施策の詳細)。現在、東友会が連絡できる被爆二世は2500人ほど。この全員にお送りする「東友」2013年1月号では、被爆二世に関する東友会の運動と東京都の施策の変遷、現在の制度について特集しました。
1.歴史
東友会に参加する被爆者たちが、子孫への影響に不安を抱き、被爆二世に対する施策を東京都に要求しはじめたのは1970年代。「革新首長」の誕生によって、全国的に被爆者施策が充実していった時代でした。一方で、アメリカとソ連など核保有大国の核実験が相次いで強行され、被爆25周年を境に原爆被害を風化させようとする動きが目立ち始めていた時期でもありました。
全国をリードした東京の運動
1971年11月、東友会は総会で活動の重点目標に被爆二世の施策と組織化を盛り込みました。当時東友会は、国に対しては全国の被爆者の先頭に立って「国家補償の被爆者援護法」の制定を、東京都には「被爆者援護都条例」の制定を求めて、大きな運動を展開していました。
1年後に「東京被爆二世の会」が発足しました。
1973年の被爆二世調査を経て東京都は、1974年に被爆二世の健康診断を実施。国が被爆二世対策を実施する11年前のことでした。内容は国の被爆者健康診断の項目に、東京都が独自に追加している胸部X線、心電図を加えた、当時としては先進的なものでした。
1974年12月30日、江東区の被爆二世が、7歳の誕生日を前に白血病で亡くなりました。2歳で発病してから5年間、17回も入院し、この年入学した小学校に通うこともできませんでした。東友会と被爆二世の会は輸血や募金を呼びかけましたが、実りませんでした。
その後も東友会は運動をひろげ、1975年10月、都議会が「東京都原子爆弾被爆者等の援護に関する条例」を可決しました。しかしこの条例は、それまで東友会の活動で積み上げられた被爆者と被爆二世の施策を統合したもので、被爆二世の医療費助成は盛り込まれませんでした。


被爆者の粘り強い運動によって、少しずつ二世施策が充実されていった。
偏見とも正面からたたかう
翌1976年7月、都議会衛生経済物価清掃議会委員会で事件がおこりました。一人の都議会議員が「被爆者の絶滅の方法はないか」「(原爆症は)遺伝の傾向があるので、優生保護法を適用するか、子どもを生まないよう都が行政指導すべきだ。国や都の財政上もその方が……」と発言したと毎日新聞が報道したのです。
この人道にもとる発言に対して、東友会はすぐに公開質問状を都議に手渡し、厳重に抗議。このとき開かれていた日本被団協総会も都議に対する抗議文を採択しました。
さらに、その半月後の都議会の同委員会では、東友会代表が参考人として意見陳述をおこない、発言した都議が被爆者に遺憾の意を表明。この日都議会は「被爆者の援護の推進に関する決議」を採択。ついに1977年4月、東京都が被爆二世に対する医療費助成制度を実施したのです。
1971年11月 | 東友会、活動方針の重点目標に被爆二世の施策と組織化を初めて盛り込む |
1972年から | 東友会、被爆二世健康診断、医療費助成を求めた都議会請願を強化 |
1972年11月 | 「東京被爆二世の会」結成 |
1973年5月 | 東京都衛生局(当時)、被爆者の親を対象に被爆二世調査。34%回答 |
1974年4月 | 東京都、被爆二世の健康診断を実施 |
1975年10月 | 東京都議会、東京都原子爆弾被爆者等の援護に関する条例を可決・成立。被爆二世の医療費助成は盛り込まれず |
1976年7月1日 | 都議会衛生経済物価清掃議会委員会で「被爆者に子どもを産ますな」と都議が発言 |
1976年7月2日 | 毎日新聞が「被爆者に子どもを産ますな」発言について報道 |
1976年7月3日 | 東友会、発言した都議に公開質問状を手渡す |
1976年7月4日 | 日本被団協が第20回定期総会で、都議への抗議文を採択 |
1976年7月27日 | 都議会衛生経済物価清掃委員会で東友会代表が参考人として意見陳述。同日、発言した都議が「被爆者に遺憾の意」表明。都議会が被爆者の援護の推進に関する決議を採択 |
1977年4月 | 東京都、被爆二世医療費助成を実施 |
1980年頃 | 「東京被爆二世の会」活動停止 |
1984年11月 | 国、財団法人日本公衆衛生協会に被爆二世の健康診断を委託 |
1988年5月 | 国、被爆者健診にガン検診を追加。東京都、被爆二世に同様のガン検診を追加 |
1990年4月 | 東京都、被爆者と被爆二世の健診に大腸ガン検診を追加。2年後国の事業に |
2003年7月 | 国、被爆二世健康診断を国の事業として各都道府県知事、広島・長崎市長に委託 |
2010年8月 | 2人の被爆二世から医療費助成の継続申請を却下されたと東友会に相談。内容は、乳ガン:2年前手術、中咽頭ガン:1年前手術。東友会、都庁に連絡しつつ異議申立の準備 | 2010年9月1日から | 東友会、都議会請願の準備開始、各会派へ要請 |
2010年9月4日 | 被爆二世の医療費助成の継続申請却下を各紙が報道 |
2010年9月16日 | 東友会、「被爆者の子(被爆二世)の医療費助成に関する請願」を提出 |
2010年12月 | 都議会、「被爆者の子(被爆二世)の医療費助成に関する請願」全会派一致で「意見付採択」 |
2011年6月 | 東京都、医療費助成申請の書式を大幅に簡略化 |
2012年4月 | 東京在住被爆二世の交流会はじまる |
2012年7月 | 東京都、東友会との懇談会で被爆二世医療費助成の更新期間の延長を2013年度から実施すると回答 |
2013年1月 | 東京都、「被爆者援護条例」の「施行規則」を改正。被爆二世医療費助成の更新期間を2013年度から2年間に延長 |
2.制度・施策
被爆者の運動のなかで実現した東京都の被爆二世の施策は、現在でも国の施策や他府県の施策にはみられない充実した内容です。
東京都内に住む「被爆二世」は、申請すれば健康診断とガン検診が無料で受けられます。
「被爆二世」とは
東京都が対象にする「被爆二世(被爆者の子)」とは、東京都民であって、実父母のいずれかが「被爆者健康手帳」の交付を受けた人です。親が広島で被爆した場合は、1946(昭和21)年6月1日以後、親が長崎で被爆した人は同年6月4日以降に生まれた人が「被爆二世」とされています。
「被爆者健康手帳」を受けていた実父または実母が死去していても、生前に「被爆者健康手帳」を受けていれば対象になります。
【補足】原爆の投下後から前述の日付の前日までに生まれた人のうち、実母が被爆している人は、「胎内被爆者」として「被爆者健康手帳」の申請ができます。
健康診断とガン検診
東京都が被爆二世に実施している無料健康診断を受けるためには、東京都が発行する「健康診断受診票 子 」の交付を受けることが必要です。
健康診断は、毎年5月~6月の春期と11月~12月の秋期の間、東京都が指定した219カ所の病院や診療所などで受けられます。東京都は「健康診断のお知らせ」を毎年3月末に郵送して、制度の内容と健康診断が受けられる医療機関を紹介しています。
この期間以外でも、指定病院が了解して受け付けてくれれば、健康診断やガン検診を受けられます。ただし、毎年3月16日から31日までは年度末のため受診できません。
健康診断の「一般検査」は全国的に実施されていますが、東京都以外では年1回のみとされています。さらに東京都は、胸部X線、心電図、コレステロールの検査を独自に追加しています。
東京都が年2回実施している「一般検査」の1回分で、男性4種類、女性6種類のすべてのガン検診を年1回受けることができます。
健康診断の結果で精密検査を受けるときは、なるべく健康保険を使いましょう。
東京都が精密検査で助成する額は、医療費の総額(健康保険が負担する7割を含む額)で6518円とされています。
【補足】被爆二世の「ガン検査」を実施しているのは、東京都以外は静岡県だけです。
被爆二世健康診断の検査項目
- 一般検査(年2回)
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- 基本検査(問診、血液検査、CRP検査、尿定性検査、血圧測定)
- 胸部X線撮影検査
- 心電図検査
- 肝機能検査
- ヘモグロビンA1c
- 血清総コレステロール定量検査
- ガン検査 (一般検査の1回分を換え、年1回まで。一度に以下の全てを受けられる)
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- 胃ガン検診(問診および胃部直接、または間接X線検査)
- 肺ガン検診(問診および胸部直接X線検査。医師が認めたときは喀痰細胞診)
- 多発性骨髄腫検診(問診および血清蛋白分画検査)
- 大腸ガン検診(問診および便潜血検査)
- 【女性のみ】乳ガン検診 (問診、視診および触診、乳房X線検査:マンモグラフィ)
- 【女性のみ】子宮ガン検診 (問診、視診、内診および頸部細胞診検査。医師が認めたときは体部細胞診検査およびコルポスコープ検査)
【注】「一般検査」の一部と「ガン検査」は東京都の独自施策です。
医療費助成制度
東京都が被爆二世に実施している医療費助成を受けるためには、東京都が発行する「健康診断受診票 子 」と「医療券」の交付を受けることが必要です。
対象とされているのは「病名」ではなく「障害名」です。主治医が〈B表〉にある11種類の障害のどれかに該当する病気だと判断して診断書を書いてくれれば、医療費助成が受けられます。
東京都の被爆二世の「医療券」で助成されるのは、認められた病気の治療で健康保険からまかなわれる医療費の自己負担分(被爆二世の年齢では通常3割分)です。
ただし、入院したときの食事代や差額ベッド代など、保険外の費用は自己負担とされています。
被爆二世の「医療券」は、都内で健康保険が使える病院や医院、薬局なら、どこでも使えます。ただし、医療費助成は申請した月の1日の分からしか対象になりません。医療費助成が必要になった方は、早めの申請をお勧めします。
【補足】同じような医療費助成制度があるのは、現在、神奈川県と大阪府吹田市、摂津市です。
被爆二世の医療費助成が受けられる条件
被爆者の「健康管理手当」の対象である下記の11種類に該当する病気にかかり、かつ 6カ月以上の治療や経過観察が必要と医師が判断した場合
- 造血機能障害:鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、血小板減少症、白血球減少症などの貧血症
- 肝臓機能障害:アルコール性、ウイルス性を除く慢性肝炎、肝硬変など
- 細胞増殖機能障害:すべての部位の悪性腫瘍(ガン・白血病)
- 内分泌腺機能障害:糖尿病、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症など
- 脳血管障害:脳出血・くも膜下出血・脳硬塞など
- 循環器機能障害:高血圧性心疾患(狭心症・心筋硬塞)など
- 腎臓機能障害:慢性腎炎・ネフローゼなど
- 水晶体混濁による視機能障害:先天性・糖尿病性を除く白内障のみ
- 呼吸器機能障害:肺気腫・肺腺維症など
- 運動器機能障害:変形性脊椎症・変形性関節症など
- 潰瘍による消化器機能障害:胃潰瘍・十二指腸潰瘍・潰瘍性大腸炎