被爆70年――核兵器をめぐる国際情勢と被爆者運動
NPT再検討会議への代表派遣を軸に内外の非核世論を高めよう
一般社団法人東友会業務執行理事・日本被団協事務局次長 山本英典
2015年最大の取り組みは、「NPT再検討会議」への代表派遣と国連本部ロビーでの原爆展開催、アメリカの市民に対する被爆の実相普及です。
NPT会議の意義と経過
NPTとは「核兵器の不拡散に関する条約」の略称で、1963年に国連で採択され、1968年に62カ国が調印し、1970年に発効。日本政府は発効から6年後の1976年に批准しました。
NPT参加国は、国連加盟193カ国中190カ国。不参加国はインド、パキスタン、イスラエル。北朝鮮は加盟しながらも脱退を表明しています。
NPTのおもな内容は次のようなものです。
- 核兵器の不拡散。その中身は、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5カ国を「核兵器国」と定め、核軍縮を義務づけ。
- 5カ国以外は「非核兵器国」とし、核兵器の保有や開発を禁止。
- 「非核兵器国」には、国際的監視(IAEA=国際原子力機関)のもとで原子力の平和(民生)利用を容認。
NPTは、「核兵器国」と「非核兵器国」を区別し、核兵器の保有の可否を定めるなど不平等条約ですが、核兵器廃絶への努力をうたい、核保有国に核軍縮を義務づけている唯一の国際条約であるため、重視されています。
この条約は、5年ごとに運用を検討する会議(再検討会議)を開催しています。
2000年の会議では「核兵器国は、保有している核兵器の完全廃棄を達成する明確な約束」を合意し、核兵器廃絶への期待が大きくふくらみました。
2005年の再検討会議では、日本被団協は36人の代表を送り、国連ロビーで1カ月間原爆展を開催。50回の証言やワークショップでの発言をするなど活躍しましたが、会議では見るべき成果は得られませんでした。
2009年にアメリカのオバマ大統領が「核なき世界」をめざすと宣言し、ノーベル平和賞うけたこともあり、2010年の再検討会議では「核兵器の完全廃絶という約束を再確認する」の文書を採択。「核兵器の非人道性」の合意や64項目の行動計画が採択されました。
この2010年の会議では、日本被団協は52人の代表団を派遣。国連ロビーで原爆展を開催し、被爆体験を証言。7カ国の国連大使と面談・要請し、ニューヨークでデモ、証言や市民との交流を40カ所でおこなうなど活躍。
こうした草の根からの多彩な努力が、各国政府を動かすものとなりました。
「非人道性」が潮流に
2013年3月、ノルウエーのオスロで開かれた2015年NPT会議準備会、いわゆるオスロ会議は、核兵器を「非人道性の視点から廃絶するしかない」と確認する大事な会となりました。
赤十字国際委員会の総裁が会議の冒頭、1945年8月の広島の惨状を伝えたマルセル・ジュノー博士の電報を読み上げ、「核兵器が使用されれば、生存者を救助する有効な手段はない」と演説したのです。
以後、人道の立場から核兵器廃絶を求める声が急速に広がり、2013年3月のオスロ会議では80カ国が核廃絶の決議に賛成。10月の国連総会第1委員会では125カ国が賛成。日本政府も始めて賛成しました。
2014年2月のメキシコ・ナジャリット会議では146カ国が核兵器廃絶を決議。2014年12月のオーストリア・ウイーン会議ではアメリカ、イギリスも参加して158カ国が核兵器廃絶をめざす議長総括を採択しました。
求められる被爆者の役割
2015年4月のNPT再検討会議では、核兵器の非人道性がいっそう強調され、核廃絶への道筋が討論されることが望まれています。
日本被団協はこの会議に41人の証言者と7人の同行者を含む代表団を派遣。東友会からは9人が参加します。
代表団は、NPT会議の成功をめざして、核保有国、非核保有国の国連代表部を訪問し、被爆体験を通じて核兵器の非人道性を伝え、核兵器廃絶への各国の努力を要請する予定です。
今回も国連ロビーでの原爆展を開催予定。ニューヨーク市民や各国の訪問者などに被爆の実相を伝える活動も計画されています。
核兵器廃絶を願う国内外の人びととともに、こうした国際的潮流をいっそう促進させるうえで、被爆者の貢献が期待されます。