被爆者相談所および法人事務所
〒113-0034 文京区湯島2-4-4平和と労働センター6階
電話 03-5842-5655 ファックス 03-5842-5653
相談電話受付時間
平日 午前10時から午後5時、土曜 午前10時から午後3時

核兵器のない世界を被爆者とともに
日本原水協代表理事 高草木たかくさきひろし

 2013年12月8日におこなわれた「年末見舞金を贈るつどい」で、原水爆禁止日本協議会の高草木博代表理事が核兵器廃絶の国際的な動向について講演しました。様ざまな国際会議に出席し、国連や各国政府の要人とも交渉にあたってきた高草木さんの講演はたいへんリアルで分かりやすく、励まされると好評でした。同氏にあらためて要点をまとめていただきました。

はじめに 原水爆禁止運動に生き続ける被爆者のたたかい

日本原水協 高草木博代表理事

 お話しする機会をいただきありがとうございます。
 ご存じ知のように、原水協は会則に、「核戦争阻止」「核兵器全面禁止・廃絶」とともに、「被爆者援護・連帯」を掲げています。
 まもなく60年を迎えるあのビキニ事件は、戦後、沈黙と犠牲とを強いられてきた被爆者のみなさんにも国民全体にとっても新たな機会でした。人びとは核兵器の禁止を求めて行動し、1955年、原水爆禁止世界大会は被爆者のみなさんとともに「原水爆が禁止されてこそ、真に被害者を救済することができる」と宣言しました。
 直後に結成された原水協が三つの目標を掲げたのも、それを受けたものでした。以来、私たちはこれらの目標のためにともに歩んでいます。きょうの「つどい」がその絆をいっそう強める機会となることを願っています。

核兵器廃絶のたたかいはどこまで来たか

 では、私たちの運動はどこまで来ているのでしょう。そのひとつの里程標ともいえるものは2010年5月ニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議での合意です。
 覚えておられる方も多いと思いますが、合意された最終文書は、行動計画の冒頭で、「核兵器のない世界の平和と安全を達成する」ことを掲げ、この目標を実現する「枠組」を確立する「特別の努力」をすべての国に求めました。さらに、この「枠組」のために核兵器禁止条約の交渉を含む潘基文事務総長の5項目提案に留意することを明記しました。
 NPTとは、もともと「冷戦」のさなか、米英ソの3カ国が既存の核保有国の核独占を確保し、後続を断つために設計したものです。その会議が、「核兵器のない世界を達成」することに核保有国を含めて合意したのですから、たいへん大きな変化です。
 これには前段がありました。一方で、世界的な反核運動の高まり、被爆者のみなさんの被爆の実相普及や核兵器全面禁止の署名運動の高まり、他方で、印パの核実験など核兵器拡散の新たな危険などを背景に、2000年5月のNPT再検討会議では大揉めの末、核兵器国が「自国の核兵器の完全廃絶」を「明確な約束」として受け入れました。
 残念ながら、歴史は必ずしもまっすぐに進むものでなく、翌年1月にはアメリカにブッシュ政権が誕生。“21世紀はアメリカの世紀である、平和の保証は力であり、核兵器はアメリカが持てば安全保障だが、他の国が持てば脅威である”というのがその主張でした。
 もちろん世界は、ブッシュ大統領やネオコンとよばれた人たちが考えたように動いたわけでありません。アメリカのイラク攻撃の動きに、どの国でも数十万人もの人びとが街頭で行動し、多数の国で政府もこれに加わり、国連安保理事会でも武力行使派は完全に孤立しました。
 この力は「第二のスーパーパワー」とよばれ、アメリカや日本を含め、武力攻撃を強行したり支持した国では大半の政府が次の選挙で大敗しています。
 これが、もう一つ、2010年のNPTの合意を生み出した大きな背景です。

公園の一角のような場所で、「No More HIROSHIMAS No more NAGASAKIS」と書かれた横断幕を広げて立つ、40人ほどの代表団の集合写真。背後にはテントがあり、その奥に広葉樹の林が見える。
2010年5月、ニューヨークで開かれたNPT再検討会議の成功をめざす草の根の国際行動に参加した日本被団協代表団。
東友会からは故・長岡和幸事務局長を団長として7人が参加しました。

核兵器の廃絶、どこが焦点か

 2010年のあの会議では、多少悔しい思いもしました。多くの市民が核兵器の廃絶を求めて行動し、「核兵器のない世界」を実現することまで合意したのに、わずかの国の抵抗で、いつまでに実現するのか、どういう手段で達成するのかの2点を詰め切れなかったことです。
 もちろん、それで失望したり、意気阻喪に陥ったりする必要はありません。いつまでにと決まらなくても、決めたことにすぐに着手すべきことは当たり前のことです。事実、その後も世界のほとんどの国は、その立場で行動しています。
 その一つの新しい攻勢が、2012年4月、次回NPT再検討会議の第1回準備委員会(ウィーン)で始まった「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の運動でした。核兵器の使用は人類の生存を危うくするものであり、核兵器がある限り人類に対する脅威はなくならない、すべての国は核兵器の禁止と廃絶のために努力しなければならないとして、この問題を2015年のNPTの焦点とするよう呼びかけたものです。
 主唱者のスイス政府は、“これまで国際政治は核兵器を「国家の安全保障」の問題として扱ってきた。だが問題は世界の安全保障、人類の安全保障であり、その原点に戻るべきではないか”とも指摘しました。
 このアプローチの大きな特徴は、「核抑止力」論など、核兵器に依存する考え方を払しょくし、核兵器廃絶のコンセンサスをつくりあげていくことにあると思います。
 この運動への参加国も、最初は16カ国、秋の国連総会では35カ国、昨春の第2回準備委員会では80カ国、秋の国連総会では125カ国と増え続けています。この動きを推進する政府レベルの二度目の会議が、間もなくメキシコであり、日本被団協の田中煕巳さんや藤森俊希さんなど、被爆者の代表も発言します。
 さらに、2013年9月には国連が、史上初めて、核兵器廃絶をテーマに、ハイレベル会合を開きました。
 ここでも、核兵器の全面禁止を求める動きは、世界118カ国の非同盟運動、米加以外の33の中南米・カリブ諸国の共同体をはじめ、圧倒的なものでした。これを受けて総会では「ハイレベル会合の後追い」という決議が採択されました。
 この決議は第4項で、「(ジュネーブの)軍縮会議において核兵器の保有、開発、生産、取得、実験、貯蔵、移転、使用および脅迫を禁止し、解体する包括的核兵器禁止条約の早期締結のために交渉を緊急に開始する」ことを呼びかけ、また毎年9月26日を核兵器全面廃絶国際デーとすることを宣言しました。
 上記二つの動きには、共通する特徴があります。それは、人道的影響の声明もハイレベル会合の決議も、市民社会の役割の大きさを特別に強調していることです。これは本当に大事な点です。国際政治の場でどれほど多くの国が主張しても、それだけでは核兵器の廃絶は実現しません。それを実現させるには、それぞれの国、とりわけ核保有国やその同盟国での、核兵器の全面禁止・廃絶を求める圧倒的な支持と行動が必要なのです。その鍵は、私たちの手中にあるのです。

この日本をどうする

 NPT再検討会議に向かってもう一つの重要なことは日本での行動です。昨秋の人道的影響に関する声明には内外の強い声に押されて日本政府もついに賛同しました。岸田文雄外相は記者会見で、“日本は唯一の被爆国としてその悲惨さをもっともよく知る国だ、悲惨さを国と世代を超えて語り継いでいく”と言明しています。
 もちろんそうあるべきです。ただ、そこで問題を止めてはならないと思います。
 2013年4月に日本が共同声明への参加を拒んだ時の理由はこういうものでした。――北東アジアの情勢は他とは違う。北朝鮮、日中関係など、北東アジアにはまだ「冷戦」が残っている。政府には国民の安全を守る義務がある。憲法上の制約の下では日米同盟や「核の傘」に依存せざるを得ない、だから、いかなる条件の下でも核兵器の使用はダメという主張には賛成できない――。
 この議論の誤りは明らかです。緊張がある、紛争問題がある、だから軍備だ、秘密保護法だ、軍事費増強だ、新基地建設だ、集団的自衛権だ、改憲だ……。こういう論理に立てば、どこに行き着くかは明らかです。被爆国として、憲法9条を持つ国として、日本の政府がやるべきことは、この対立の悪循環を加速することでなく、それらを断ち切ることのはずです。
 20世紀の二つの世界大戦を経て、人類が国連憲章を選び、日本国民は憲法を選びとりました。まさに、世界にはなお紛争要因があり、緊張があるからこそこの道を選んだのではなかったのか。日本の平和と安全の鍵は軍拡や「核の傘」への依存ではなく、9条を外交に活かし、核兵器の廃絶での共同を北朝鮮にも中国にもアメリカにも提唱し、押し広げていくことではないのか。そのことが、2015年のNPT再検討会議に向けても大きく問われているのだと思います。

市民社会の行動と連帯が鍵

 2015年4、5月には、次のNPT再検討会議がニューヨークで開かれます。
 世界の多くの政府や平和団体が、それを視野に核兵器の廃絶を求める行動を起こしています。2013年12月の国連総会で、核兵器全面禁止条約の交渉を呼びかけた決議への賛成は、137カ国に上りました。これには核兵器国の中国やNPTに加わっていないインド、パキスタン、さらには北朝鮮も含まれています。
 すでにNPTの189の締約国の中で、184の国々は「非核兵器国」として「核兵器を開発も取得もしない」義務を受け入れているのです。
 この事実から見ても、ほんのいくつかの国が決断するなら、核兵器全面禁止に着手することは可能なのです。
 その決断を生み出すものは世界諸国民の世論と行動であり、私たちのたたかいです。
 そのため、2015年4月27日、次のNPT再検討会議の開会に向けて、私たちは一緒に、広島と長崎の被ばくの実相と被爆者のみなさんの生き様、たたかい様を、世代を超え、国境を越えて伝え、「核兵器全面禁止のアピール」署名を通じて世界の人びとの具体的な意思を形にしましょう。
 そして2015年4月には、世界70億の人類の生存の意思を具体的な形にし、何億もの署名として国連の前に積み上げようではありませんか。そのためにもみなさんの健康とご多幸を心から願って私の報告とします。