被爆者相談所および法人事務所
〒113-0034 文京区湯島2-4-4平和と労働センター6階
電話 03-5842-5655 ファックス 03-5842-5653
相談電話受付時間
平日 午前10時から午後5時、土曜 午前10時から午後3時

被爆者は改憲の動きをどう見る 東友会が憲法問題で学習会

 「日本国憲法と原爆被爆者」をテーマに、東友会は初めて憲法問題での学習会を開きました。これは、憲法改定問題で、被爆者から不安の声が寄せられているため、核戦争を体験した被爆者として、この問題をどう考えるべきか考えたいと企画したもの。
 2013年6月11日、安原幸彦弁護士(原爆症認定集団訴訟副団長)を講師に迎えて、平和と労働センターでおこなわれた学習会には、被爆者、被爆二世、東京民医連、東京都生協連、東京原水協などから74人が参加しました。
 安原講師はまず「憲法問題はいま改憲まで3分前の危機にある」と情勢を報告。7月の参議院選挙で改憲勢力が多数になれば、改憲を軸にした国家改造が一挙にすすむ恐れがあると述べました。
 さらに、アメリカが6回、フランスが27回、ドイツが59回改憲したといわれているが、いずれも厳格な手続きのもとでおこなわれており、それをゆるめて改憲したわけではないと述べました。
 その上で、現行憲法と自民の改憲案の対比表を使って、憲法前文、天皇の扱い、9条改悪構想、国民の権利の制限、基本的人権、緊急事態での首相権限の強化などをつぶさに説明しました。

並べられた机に着席する参加者たち。手元の資料に目を落としたり何か書き込んだりしながら話を聞いている。
学習会に参加した被爆者や支援者のみなさん
講師の安原幸彦弁護士

「原爆被爆者は平和憲法を産みだした親」

 憲法問題学習会は、2時間にわたる内容の深いものでした。安原講師は、現行憲法と「自民党憲法改正草案」の対比表を示しながら現在の状況を詳しく説明しました。その主な内容と、質問と意見、参加者の感想を紹介します。(文責・編集部)

改憲3分前の危機

 憲法が制定されてから67年、いまは、憲法が改定される3分前といった危機的な情勢にあります。その危機は、(1)2012年12月の衆議院選挙で、自民党と日本維新の会、みんなの党の改憲を主張する議員が議員総数の3分の2を超え、憲法改定の手続きに必要な発議条件を持ったこと、(2)改憲を主張する安倍首相が再登場したこと――によるものです。
 安倍首相は4年前に総理になったときも改憲を掲げましたが挫折しました。今度はそのときの挫折原因をみて周到な準備をしています。
 アベノミクスといわれる経済政策を先行させていること、解釈改憲、立法改憲、手続き改憲を先行させていることです。しかも、被爆者がもっとも大切に思う9条改定ではなく、まず、憲法を変える手続き96条を変えようとしています。
 しかし、ほころびが目立ってきています。株価は乱上下し、円安は円高に変わり、96条改定先行の構想には自民党内でも、改憲を主張する学者の中にも反対論が出てきています。

憲法改定のハードル

 よく、外国の憲法改定が引き合いにされています。ドイツは59回改憲したとか、フランスも27回、アメリカも6回改定しているといいます。「東京新聞」の4月13日号に出ていますが、「改憲の回数が多い国の憲法は、通常の法律のように細かいところまで規定している」からで、「国の基本原理に関わる項目の改正には議会の3分の2とか、4分の3とか、国民投票の実施が必要などハードルが高く、改正は容易でない」のが実情です。

軍事大国への改憲

 現行憲法は、前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのない」ようにすると、侵略戦争への反省から始まっています。しかし、自民党草案には「大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展」したとのべ、戦争への反省は全くありません。
 第9条の「戦争の放棄」の規定も「平和のうちに生存する権利」も削除されています。
 代わりに加えられたのが「国防軍」の創設と「国際社会の平和と安全を確保」するための集団的自衛権の行使、軍事「機密の保持」、国防軍の「審判所」つまり軍に特別裁判所を設置するというもの。そして国民には国防義務を課しています。
 戦争をすることを前提にして、戦争の方向に国民を動員していこうとしているのです。この軍事大国への道こそ、安倍首相の本命中の本命なのです。

天皇を憲法の上に

 「現行憲法は天皇は「象徴」で「国政に関する権限を有しない」となっていますが、自民党草案は、日本は「天皇を戴く国家であり」「日本国の元首」であり、天皇には憲法を尊重する義務もないことにしています。
 天皇を尊ぶ人も、「象徴」ではなく、憲法の上に天皇を置くことには、戦前を思い出す人も多いはずです。とりわけ、天皇の名によっておこされたあの戦争で核戦争を体験した被爆者のみなさんは、そのことに敏感だと思います。

国民を縛る法に改変

 憲法は本来、国民が国家権力を縛る法です。それを国民を縛る法に変えようとしています。
憲法は、国民の権利と義務は、「国民の不断の努力で保持」し、「公共の福祉のために利用する責任」があるとしています。
 自民党草案は、「常に公益及び公の秩序に反してはならい」としています。この「公益と秩序」は、集会、結社、言論、出版の制限、信教の自由、教育環境の整備、公務員の労働基本権の制限にもおよんでいます。

改憲阻止に向けて

 憲法改定を阻むためには、自民党支持者を含めて、憲法改定やめろの声を集めることです。有権者として、「憲法を改定をするというなら議員にしない」とはっきり主張することが大事です。これはどの政党を支持するかしないかの問題ではなく、自分が生きるため、子や孫が生きる未来の日本をどうしていくかの重要な問題です。
 原爆被爆者は、憲法を産みだした親だと思います。あの大きな犠牲をうけたことが、平和憲法を生み出したのです。被爆者のみなさん。お年をとっても、楽隠居はまだできません。憲法改悪を阻む力になってください。

広い部屋に並べられた机の席をうめる参加者。
被爆者だけでなくたくさんの人が参加して学びました。

参加者の感想から

  • より多くの人に、知り、考えてもらいたいと思いました。ムードで改憲にすすんでしまうことを心配しています。被爆者を含む戦争体験者の経験を受けとめることを、もっと大切にしていく社会にしていくことが大切と思います。(36歳・男性・非被爆者)
  • 一見難解な憲法をとてもわかりやすく解説してくださりありがとうございました。この講義を職場で共有したく存じます。被爆者の体験を聞いてみたくなりました。(30歳・男性・非被爆者)
  • 日本人のほとんどが戦争による被害を受けたはずです。だからこそ、思想信条を超えて平和主義という一点で結束し現法憲法を守らねばと思いました。9条のおかげで68年間一人の戦死者も出さなかったわが国を誇りに思いました。(76歳・女性・被爆者)
  • 自民党草案が明治憲法の思想を踏襲したものであることがよく分かりました。これまでは9条改定ばかり注視していて他の条文にまで思考が及ばなかったけど、改憲ではなく“壊憲”って感じです。戦争は最大の人権侵害であると思います。(42歳・女性・非被爆者)
  • (自民党の)“改正草案”の中味は、国民を縛り、国にとって都合のよいものだということがよくわかりました。被爆者が被爆体験を語り継ぐことが、いまの憲法を、とくに9条を守ることだと強く思いました。(72歳・女性・被爆者)
  • 安原先生の「読み、聞き、比較」の大変わかりやすい学習会に参加し、緊迫した国事の重大さを感じている一人です。悲惨な戦争の未曾有の犠牲者を逆なでするような許せないこの行為に対し、我われはいま全力を挙げて阻止し、たたかわなくてはならないと思います。(81歳・男性・被爆者
  • たいへんわかりやすかったです。復古調の憲法改定に反対します。前文の精神は、世界に誇るもので、継続的にと願います。若い世代に広げていきたい。(69歳・男性・被爆者)
自席から質問する参加者1 自席から質問する参加者2
参加者からも質問や意見などが活発に出されました。