被爆者相談所および法人事務所
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【特集】原爆症認定の実情と課題を見る 3年間の傾向

 被爆者にとって原爆症認定制度は切実な問題ですが、現在の「新しい審査の方針」の下での認定審査の実態と、被爆者が求める「原爆被害の実態に即した認定を」の間にある溝はなかなか埋まりません。国の審査と被爆者の願いの矛盾を、具体的な事例をもとに紹介します。

 2008年4月から厚生労働省は、「新しい審査の方針」を使った原爆症認定審査を開始し、2011年3月末までの3年間で7161件を認定し7196件を却下しています。
 東京都には全国の被爆者手帳所持者のおよそ3%が住んでいます。この間、東友会が対応した原爆症認定申請のうち264件(厚労省発表の3.7%)が認定され、53件(同0.7%)が却下されました。この数字は多くはありませんが、厚労省がウェブサイトで公表している2010年度の審査結果の傾向とほぼ一致します。

改善された部分もあるが「新しい方針」の主旨が生かされていない

 この3年間に東友会が対応した申請は、原爆症認定集団訴訟の原告をふくめて421件。うち317件が審査されました。認定された264件のうち集団訴訟原告66件をのぞいた件数は198件。うち、ガンや白血病など「放射線起因性が推認される」という「積極認定」に指定された病名のものは186件ありましたが、「積極認定」の被爆状況に国が指定した3.5キロ以内直接被爆などの被爆状況を超えたものはゼロでした(表A)。
 これは、「新しい審査の方針」に明記されている「1(積極認定)に該当する以外の申請についても、申請者に係る被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して、個別にその起因性を総合的に判断する」という「総合認定」で認められた申請が1件もなかったことを示しています。
 「積極認定」の指定病名でありながら「放射線起因性が認められる」という追加要件がついた心筋梗塞などでの認定は12件のみ(図A)。肝機能障害は長崎の1キロ直爆の1人、心筋梗塞は広島1キロ、長崎0.7キロの2人、甲状腺機能低下症は直爆2キロ以内の9人だけで、白内障は1件も認定されませんでした。

表A 東友会が対応した原爆症認定申請の現状
(ここから音声スクリーンリーダー用の表Aの説明です)
東友会が対応した3年間の原爆症認定申請は全部で421件、うち審査済みは317件で、未審査が104件にのぼります。審査の滞留も大きい問題のひとつになっています。審査済み317件のうち認定は264件、却下は53件。認定のうち66件は訴訟原告で、残りの198件は原告ではない人びとです。この198件のうち、「放射線起因性が認められる」の追加要件がない疾病での認定が186件、追加要件のある病名で認定されているのはわずか12件ときわめて少なくなっています。
(スクリーンリーダー用の説明ここまで)

とくに「放射線起因性」の追加要件がある病名で却下が顕著

 却下事例については、この3年間と6月20日まで通知された2件を加えた55件の傾向を広島・長崎別に表に整理してみました(表B、C。表を見やすくするため、ウェブページではさらに表を分割しています)。
 「放射線起因性が認められる」の追加要件が付記された病名(表D)で、「起因性が認められない」として却下された申請は、1キロ直爆以内でも白内障と心筋梗塞で2人。2キロ以内では9人にのぼります。
 一方、「放射線起因性がある」とされた悪性腫瘍・白内障は、「積極認定」に指定された被爆状況での却下は、3.5キロを超えた被爆距離で100時間以内に入市した事実が証明できなかったものを除くと皆無です。

表B1 広島被爆の却下事例の却下理由(直接被爆)
おもな疾病分類 直接被爆者:被爆時の爆心地からの距離(キロメートル)
[日付]はその後入市した日(1945年8月)
1.0 1.1 1.3 1.5 1.5 1.6 1.7 2.0 2.1 2.2 2.5 2.5 2.5 3.0 3.0 4.0 4.1
[7日]
悪性腫瘍・白血病 その他 起因性
心筋梗塞・狭心症・心疾患 起因性 起因性
甲状腺機能障害 起因性 起因性
肝機能障害 起因性 起因性
脳梗塞 起因性
白内障 起因性 両方 起因性 両方 起因性 起因性
(複合) 起因性 起因性
表B2 広島被爆の却下事例の却下理由(入市被爆)
おもな疾病分類 入市被爆者:入市日
6日 7日 8日 8日 11日 11日 14日 16日 16日 17日 19日 19日
悪性腫瘍・白血病 要医療性 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性
心筋梗塞・狭心症・心疾患
甲状腺機能障害
肝機能障害 起因性 起因性
脳梗塞 起因性
白内障
(複合)
表C1 長崎被爆の却下事例の却下理由
おもな疾病分類 直接被爆者:被爆時の爆心地からの距離(キロメートル)
[日付]はその後入市した日(1945年8月)
0.6 2.0 2.2 2.5 2.5 2.5 2.5 2.5 2.7 2.7 3.2 3.3
[10日]
3.3 3.5
[10日]
3.6 3.6 3.8
悪性腫瘍・白血病 起因性 起因性 起因性 起因性
心筋梗塞・狭心症・心疾患 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性
甲状腺機能障害 起因性 起因性
肝機能障害
脳梗塞 起因性 起因性
白内障 起因性 起因性 起因性 起因性
(複合)
表C2 長崎被爆の却下事例の却下理由
おもな疾病分類 直接被爆者:被爆時の爆心地からの距離(キロメートル)
[日付]はその後入市した日(1945年8月)
入市被爆者:入市日 3号被爆者
4.0
[9日]
4.2
[12日]
4.4 4.5 4.5 5.0
[11日]
10日 20日
悪性腫瘍・白血病 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性 起因性
心筋梗塞・狭心症・心疾患 起因性 起因性
甲状腺機能障害
肝機能障害
脳梗塞
白内障
(複合)

【表B、Cの注】疾病は大まかな分類です。例えば悪性腫瘍には、胃ガン、肺ガン、前立腺ガン、乳ガンなど多種のガンを含みます。(複合)は、複数の疾病で申請したものの、いずれも却下されたものです。例えば「肝機能障害と心筋梗塞」などです。
入市日は、指定地域内に立ち入った日付で、その後の滞在時間などは省略しています。

表D 「積極認定」―2つの条件
被爆条件 指定病名
  1. 爆心地から約3.5キロメートル以内での直接被爆
  2. 原爆投下後約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市
  3. 原爆投下約100時間以後から2週間以内に爆心地から約2キロメートル以内の地点に約1週間以上滞在
  • 悪性腫瘍:固形ガンなど、白血病
  • 副甲状腺機能亢進症
  • 放射線白内障(加齢性白内障を除く)
  • 放射線起因性が認められる心筋梗塞
  • 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症
  • 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変

「原爆被害の実態を見てほしい」が被爆者の願い

 私たちは集団訴訟運動のなかで、これまでの機械的な審査を改め、被爆の実態に即した審査を求めてきました。「新しい審査の方針」には、「積極的に認定を行うため(中略)客観的な資料がない場合にも、申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する」とも書かれています。
 それでも「起因性を認められない」というのは、被爆者にとって原爆は無関係と言われるに等しく、納得できないという声が強まっています。
 厚生労働省の被爆者医療分科会が、みずから決めた「新しい審査の方針」のこれらの記載を無視し続けている実態は、東友会が対応したわずかな申請だけでも、明らかになっています。