被爆者相談所および法人事務所
〒113-0034 文京区湯島2-4-4平和と労働センター6階
電話 03-5842-5655 ファックス 03-5842-5653
相談電話受付時間
平日 午前10時から午後5時、土曜 午前10時から午後3時

原爆症認定問題特集 「新しい審査の方針」の下での認定実態

ガン以外の病気では従来とほとんど変わらず

 2010年9月と12月に2010年度上半期の原爆症認定審査の処分内容が開示されました。2010年1月に長妻昭厚生労働大臣(当時)と日本被団協、集団訴訟原告団、全国弁護団連絡会の協議で被爆者側が要求したもの。(下表「審査年度別 認定・却下の件数」を参照)

審査年度別 認定・却下の件数
2008年から2010年上半期までの厚生労働省公表データをもとに「東友」編集部でまとめたものです。
審査年月 認定 却下 合計
2008年度 (同年度の被爆者総数23万5569人に対する割合) 2,919(1.2%) 62 2,981
2009年度(同年度の被爆者総数22万7565人に対する割合) 2,807(1.2%) 2,134 4,941
2010年度上半期(4月から9月) 602 2,893 3,495
合計 6,328 5,089 11,417

 開示は、処分結果と被爆状況、病名、処分日、却下理由の5点というたいへんに不十分なものですが、この半年間の傾向からも、被爆の実態とかけはなれた被爆者医療分科会の審査姿勢が明らかになっています。
 原爆症認定集団訴訟の判決で連敗した国は、原爆症認定の基準としてきた「原因確率」を使った審査を改め「新しい審査の方針」による審査を2008年4月から開始。このとき「積極認定」の枠を設け被爆条件と指定病名を自ら定めました。(下記「『積極認定』の条件」を参照)

「積極認定」の条件

被爆条件
  1. 爆心地から約3.5キロメートル以内での直接被爆
  2. 原爆投下後約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市
  3. 原爆投下約100時間以後から約2週間以内に爆心地から約2キロメートル以内の地点に約1週間以上滞在
指定病名
  • 悪性腫瘍:固形ガンなど、白血病
  • 副甲状腺機能亢進症
  • 放射線白内障(加齢性白内障を除く)
  • 放射線起因性が認められる心筋梗塞
  • 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症
  • 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変

 しかし、2011年度上半期の3495件の処分結果を分析したところ、「放射線起因性」という条件が付けられている白内障、心筋梗塞・狭心症、甲状腺機能低下症、慢性肝炎・肝硬変は、これまでの「原因確率」に近い「基準」が設けられ、認定が制約されていることが浮き彫りになりました。とくに、入市被爆者が全員却下されている事実から、この「基準」の存在は明白です。(下図「『新しい審査の方針』における認定と却下の傾向」を参照)

疾病や被爆状況による認定と却下の傾向
「新しい審査の方針」における認定と却下の傾向 (2010年4月から9月の実績から算出) (ここから音声スクリーンリーダー用の図の説明です)
「新しい審査の方針」で積極認定の対象となる疾病は、直接被爆の場合、従来は被爆距離2.0キロメートルが認定の境界となっていました。「新しい審査の方針」では、3.5キロまでが「積極認定」とされていますが、実際に3.5キロが境界になっているのは悪性腫瘍のみです。白内障ではおよそ1.2キロ、心筋梗塞・狭心症ではおよそ1.3キロ、甲状腺機能低下症ではおよそ2.0キロ、慢性肝炎・肝硬変ではおよそ1.3キロがそれぞれ境界となり、それより遠い距離での直接被爆は極端に却下が多くなります。積極認定の基準がまったく活かされていません。入市被爆者にいたっては、悪性腫瘍以外の認定は0人です。
(スクリーンリーダー用の説明ここまで)

【解説】厚生労働省が公開した資料をもとに「東友」編集部で分析した、認定と却下の境界を被爆距離で見た場合の傾向です。悪性腫瘍では従来の審査方針の境界だった2.0キロメートルから緩和された傾向がうかがえますが、他の疾病はほとんど変わっておらず、なんのための「積極認定」かが問われています。

 白内障は「原因確率」による審査当時も、被爆当時10歳代以下なら被爆距離1.3キロ程度で認定されていました。甲状腺機能低下症もこれまで2キロ以内の直接被爆者は、基本的に認定されてきました。この2種の病名では、「新しい審査の方針」になって認定される被爆状況はまったく広げられていません。心筋梗塞・狭心症、慢性肝炎・肝硬変は、「原因確率」で放射線起因性が一番厳しく求められた男性被爆者の胃ガンに準じた1.5キロより近距離の直接被爆しか認定されていないのが実情です。
 2003年から被爆者は、全国各地で306人の原告を先頭に大きな国民世論に支えられて原爆症認定集団訴訟運動をすすめてきました。この裁判で国が負け続けたのは、入市被爆者への残留放射線、被爆地に滞在することで体内に取り込んだ放射性物質による被曝の影響をまったく認めないなど、被爆の実態を軽視していたからでした。その反省に立った「新しい審査の方針」にもかかわらず、心筋梗塞などでは「積極認定」ではなく「積極却下」というべき状況が続いています。
 東友会は日本被団協とともに、これらの実態を明らかにしながら、厚労省に「積極認定」の心筋梗塞などにつけられた「放射線起因性」を削除するよう求め、担当政務三役を決めて実のある交渉をするよう求めています。