厚生労働省、東数男原爆裁判で上告断念
東数男原爆裁判で厚生労働省が上告を断念したことに対し、東友会は日本被団協・東京おりづるネット(原爆裁判の勝利をめざす東京の会)・東さんの弁護団と連名で発表した声明を掲載します。
あわせて、2005年4月11日にプレスリリースされた厚労省の上告断念文の要旨を掲載します。
【声明】
厚生労働大臣が東原爆裁判で上告断念
集団訴訟の完全勝利と認定制度の抜本的改善を
本日、尾辻秀久厚生労働大臣は、東数男さんが訴えた原爆症認定却下処分取消訴訟に対する3月29日の東京高等裁判所の判決に対して、最高裁判所に上告・上告受理申立することを断念しました。 上告を断念させたのは、3月29日の判決を確定させ、これ以上、死者にむち打つようなことを絶対にしないでほしいという、東さんの奥さんを始めとする、全国の被爆者や多くの支援者の必死の闘いによるものです。ここに改めて全国の方々にお礼を申し上げます。
東さんは、16歳の時に学徒動員で働いていた長崎の三菱重工業長崎兵器製作所大橋工場で被爆し、1994年に肝機能障害を理由に求めた原爆症認定申請が却下されたため、1999年に提訴し、昨年(2004年)3月に東京地方裁判所で東さんの主張が全面的に認められました。しかし厚生労働大臣が控訴したため、申請から10年を超える年月を要してようやく東京高裁でも勝訴し、国の判断の誤りがただされたのです。しかし、東さんはこの判決を聞くことなく、今年1月29日に亡くなってしまいました。
東京高裁の判決は、1審判決同様、人類が初めて経験した「生き地獄」としかいいようのない被爆の実相を踏まえ、放射線が人体に与える影響について、現在の科学的な知見を正しく理解した上での判断であり、極めて正当なものと評価されます。
厚生労働大臣は、原爆症認定訴訟において、この間松谷最高裁判決、小西大阪高裁判決を始め、今回の東京高裁の判決を含めて7つの裁判所で連続して敗訴しています。このことは、現在全国13地裁で168人が提訴している原爆症認定集団訴訟での被爆者の訴えが正しいことを証明しています。東数男さんは苦しい闘病のなかで、「俺の体はもうぼろぼろだ。しかし全国の被爆者のために頑張る」といいつづけました。
被爆60周年を迎える中、全国に生存する被爆者27万人が原爆症の発症に怯え、現に多数の被爆者がさまざまな疾病に苦しめられています。
私たちは厚生労働大臣が、被爆者保護に立場に立たず、被爆者の声を聞こうとしないまま推し進めてきた冷酷・非情な被爆者行政を根本的に転換すべきです。その上で、原爆被害の実相と被爆者の実情に素直に目を向け、全国の集団訴訟について前向きに解決するとともに、すでに提出している「原爆症の認定制度の運用改善に関する要求」を検討して、速やかに現在の原爆症認定制度を抜本的に改めることを要求するものです。それが国の冷酷な被爆者援護行政の中で、無念の死を遂げた東さんの願いに応える唯一の道でもあります。
2005年4月11日
- 日本原水爆被害者団体協議会
- 東京都原爆被害者団体協議会
- 東数男原爆訴訟弁護団
- 原爆裁判の勝利をめざす東京の会
厚生労働省の上告断念文(要旨)
判決は、東氏の肝機能障害を原爆の放射線に起因するものと認めるとしているが、医学・放射線防護学上の一般的な理解とは大きく異なっている。判断の前提とされた科学的知見の評価も、同様である。
しかし、こうした事実認定を最高裁で争うことは困難であるから、上訴は行わない。
この判定は、個別の事案に対する判断であり、医学・放射線防護学の観点からは特異なものであるから、直ちに審査の在り方の見直しにつながるものではない。肝機能障害に係る申請の取り扱いについて、あらためて検討する。
原爆症の認定に当たっては、放射線起因性について「高度の蓋然性」を証明することが必要であるとの基本的な考え方が最高裁で示されているから、今後もこれに沿って、審査を行う。