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「原爆症認定裁判(あずま訴訟)に関する申入書」

 あずま数男かずお原爆裁判の2審勝利をうけ、東朝子さん、東友会、弁護団などは判決直後に厚生労働大臣へ申し入れをおこないました。その申入書を掲載します(書式は見やすいように一部編集しています)。
 申し入れの際には、日本原水爆被害者団体協議会が作成した「原爆症認定制度の運用改善に関する要求」も併せて提出しました。

原爆症認定裁判(あずま訴訟)に関する申入書

2005(平成17)年 3月29日
厚生労働大臣 尾辻秀久 殿

  • 被控訴人 東 数男(あずま・かずお)
  • 承継人 東 朝子(あずま・あさこ)
  • 日本原水爆被害者団体協議会
  • 東京都原爆被害者団体協議会(東友会)
  • あずま数男かずお原爆裁判弁護団
  • 東京おりづるネット(原爆裁判の勝利をめざす東京の会)

申し入れの趣旨

  1. あずま数男かずおに対する認定申請却下処分を取り消した本日の東京高等裁判所判決を受け入れ、上告を行なわないこと。
  2. 本日提出した「原爆症認定制度の運用改善に関する要求」を直ちに受け入れ、被爆者切り捨ての原爆症認定行政を改め、その抜本的改革を図ること。
  3. 上記2点について、厚生労働大臣から直接回答を得たく、直ちに遺族・弁護団・日本被団協と面談すること。

申し入れの理由

1 東京高裁判決の概要

 東京高裁は、本日、昨年(2004年)3月31日の東京地裁判決に引き続いて、要旨次のように述べて、故あずま数男かずおさんに対して厚生労働大臣が行った原爆症認定申請却下処分を取り消しました。
 「肝機能障害が放射線起因性を有するか否かを判断するに当たって、原爆放射線を被曝したことによって上記疾病が発生するに至った医学的、病理学的機序の証明の有無を直接検討するのではなく、放射線被曝による人体への影響に関する統計的、疫学的な知見を踏まえつつ、被爆状況、被爆後の行動やその後の生活状況、具体的症状や発症に至る経緯、健康診断や検診の結果等を全体的、総合的に考慮した上で、原爆放射線被曝の事実が上記疾病の発生を招来した関係を是認できる高度の蓋然性が認められるか否かを検討することが相当である。」

2 早期解決の必要性

 あずま数男かずおさんは、本年1月29日、本日の判決を聞くこともできず、76歳で無念の死を遂げました。これは、厚生労働大臣が、高齢の上健康を害しているあずま数男かずおさんの状況を知りながら、さしたる控訴理由もないのに、敢えて不当な控訴をしたことによるものです。
 本件の争点は、もっぱら、あずま数男かずおさんの肝機能障害が原爆放射線に起因するかどうかという事実認定であって、民事訴訟法に定める上告理由(憲法違反・判例違反)・上告受理申立理由(法令違反など)がないことは明らかです。にもかかわらず、厚生労働大臣が上告をすれば、それは死者に鞭打つ非人道的なものであり、政治的・政策的理由からいたずらに紛争を長期化させるものとの非難を免れないでしょう。

3 被爆者行政転換の必要性

 DS86や「しきい値論」を用いたこれまでの原爆症認定行政が非科学的で誤ったものであることは、既に松谷訴訟最高裁判決、小西訴訟大阪高裁判決で厳しく指摘されているとおりです。にもかかわらず、厚生労働省は、新たに「原因確率」なる認定基準を導入してこれまで以上に被爆者を切り捨てる政策を実行してきました。
 このような冷酷な被爆者行政は、本判決を機に抜本的転換される必要があります。そのため、日本被団協は、本日、「原爆症認定制度の運用改善に関する要求」を提出しました。

4 結論

 よって私たちは、(1)東京高等裁判所判決を受け入れ、上告を行わないこと、(2)本日提出した「原爆症認定制度の運用改善に関する要求」を直ちに受け入れ、被爆者切り捨ての原爆症認定行政を改め、その抜本的改革を図ること、(3)上記2点について、厚生労働大臣から直接回答を得たく、直ちに遺族・弁護団・日本被団協と面談することを求め申し入れます。

以上