「黒い雨」訴訟 全面勝訴も県・市は控訴 根本に国の姿勢
原爆が投下された直後、広島市郊外に降った「黒い雨」を受けた人びとが被爆者手帳の交付を求めてきた「黒い雨」訴訟で、2020年7月29日、広島地裁が84人の原告全員に被爆者手帳を交付せよと命じる判決を出しました。
しかし、広島県と広島市はこれまでの態度を一転させ、8月12日に控訴しました。県と市は、政府が控訴の条件として掲げた「援護地域拡大を検証する」との姿勢に変わったことと、被爆者手帳の交付は国からの受託であることを理由に、国の判断に従いました。
「黒い雨」訴訟とは
この裁判は、2015年から3回、「黒い雨」を受けて被曝した人が広島地裁に提訴していたもの。広島地裁判決が確定すると被爆者援護の費用が膨らむことを懸念して、加藤勝信厚生労働大臣は、「判決が過去の最高裁の判断と異なる」などと発言していました。直接の被告となった県と市は、これまで被爆者援護施策の対象地域拡大を政府に要望し、この判決にも国が控訴を断念するよう求めてきましたが、今回は原告や被爆者の期待を裏切ったかたちになりました。
被爆者手帳の交付条件を規定する原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第1条第3項に「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」と明記されています。豊富な資料に基づいて「黒い雨」の降雨地域を示した「増田雨域」などの信頼できる研究結果を地裁が認めたにもかかわらず、政府と広島県・市が地裁の判断を否定したことは、この法の主旨からも逸脱するものと言わざるを得ません。