ノーモア・ヒバクシャ広島訴訟 高裁で原告11人中5人が逆転勝訴
広島高裁(三木昌之裁判長)は2020年6月22日、原爆症認定申請の却下処分取り消しを求めた控訴審で、原告11人(別表に一覧)に対して判決を言い渡し、5人を原爆症と認めたものの、6人は地裁判決を支持して控訴を棄却しました。
この原告11人は、2010年から16年の間に広島地裁に提訴。17年、広島地裁は全員の訴えを退ける判決を出しました。これに対し原告11人は広島高裁に控訴して争っていたものです。
今回の広島高裁判決では、地裁が放射線起因性を認めなかった甲状腺機能低下症の4人と心筋梗塞の1人に対して地裁の判決を否定しました。甲状腺機能低下症で勝訴した原告の一人は、「新しい審査の方針」が示した被爆距離より700メートル遠方で、心筋梗塞の原告は300メートル遠方で被爆した人でした。
敗訴となった甲状腺機能低下症3人のうちの2人は甲状腺低下症に罹患していない、残りの1人と心筋梗塞と原告は「新しい審査の方針」で示された被爆距離から1キロメートル遠い、心筋梗塞の1人は加齢や喫煙など他に原因があるとともに、入市した事実を認められないとの理由でした。さらに白内障の1人については、点眼薬は白内障の治療として認められないとの地裁の判断を支持しました。
この判決に対して原告団と弁護団は、一部の逆転勝訴を評価しつつも、「要因は加齢などの可能性がある」とした地裁判決を再度支持したことを批判。原爆放射線の影響の可能性がある以上、認めるべきだと述べました。
原告番号 | 判決 | 性別 | 被爆時年齢 | 被爆状況 (「1.2キロ」などは爆心地からの距離) |
申請病名 | 高裁の判断 |
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1 | 敗 | 女 | 16 | 1.2キロ直接被爆 |
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2 | 勝 | 男 | 2 | 2.7キロ直接被爆 |
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7 | 勝 | 女 | 13 | 2.5キロ直接被爆 |
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8 | 勝 | 男 | 4 | 2.6キロ直接被爆 8月7日から14日入市 |
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13 | 敗 | 女 | 10 | 3キロ直接被爆 |
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14 | 勝 | 女 | 1 | 2.3キロ直接被爆 |
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16 | 敗 | 男 | 7 | 8月12日猿猴橋(2.0キロ)入市 その後月末まで野宿 |
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17 | 敗 | 男 | 16 | 4.1キロ直接被爆 8月8日から9日 1.0キロ入市 |
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24 | 敗 | 女 | 14 | 2.5キロ直接被爆 |
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26 | 勝 | 男 | 3 | 2.3キロ直接被爆 |
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28 | 敗 | 男 | 19 | 1.5キロ直接被爆 |
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厚労省に要請・記者会見
東友会の家島昌志代表理事と日本被団協、ノーモア・ヒバクシャ訴訟全国原告団、同弁護団の代表は22日、厚生労働省を訪問して今回の広島高裁判決で認定された5人を上告しないことと、原爆症認定の在り方の根本的な見直しについて要請しました。
その後の記者会見では、家島代表理事が「声明」を読み上げ、日本被団協の木戸季市事務局長らが被爆の実態を知らせ、宮原哲朗・中川重徳弁護士が、加齢を理由に原爆放射線の影響を過小評価することの不当性と、高齢化した被爆者が裁判をしないと原爆症と認定されない状況が続いていることは、法の精神にも反すると説明しました。
全国原告団の綿平敬三副団長(東友会理事)は、10年続いている裁判について「被爆者は高齢化している。国は被爆者の実態をしっかり見て審査すべきだ。勝訴した5人は80歳代から70歳代の後半になっている。もう控訴するなと強く願う」と、力強く訴えました。
この判決については上告期限の7月10日までに、原告側も国側も上告を断念したため、5人の勝訴、6人の敗訴が確定しました。