58年間の実績を持つ東友会の被爆者相談事業
東友会は58年間、被爆者相談所を運営してきました。近年は1万6000から2万件の相談に対応しています。今回の「東友」では、この東友会相談所の仕事を紹介します。
「私達はあらゆる階層にわたっていますが、政治上、思想上、宗教上等の立場をのりこえて被害者であるという唯一の共通点に立って協力し、お互いの健康を保持し生活を向上させていき、ひいては原水爆のないほんとうの平和にすること、即ち『再びあのような間違いはくり返しません』という祈りにも似た悲願を守りぬくためにも、純粋に、素朴に、協力したいと決意するものであります」
1958年11月、東友会の結成宣言の一部です。当時13の地区の会(区市の被爆者の会)で結成された東友会は、翌年から相談員として職員を配置し、相談事業を重視してきました。この東友会の実績は東京都に認められ、1962年4月から54年間、都知事から被爆者健康指導事業の業務委託を受けています。
気軽に相談に来られるように
現在の東友会の事務所は、JR中央線御茶ノ水駅から徒歩10分くらい、文京区湯島にあるサッカーミュージアムのすぐそば、平和と労働センターの6階にあります。エレベーターが開くと、すぐ前が東友会。「一般社団法人東友会 被爆者相談所」の看板脇のドアはいつも開いています。「相談に来た被爆者や家族が誰でも入りやすいように」という思いからで、港区新橋に事務所があったころからの東友会の姿勢です。
部屋に入ると右のロッカーの奥に相談コーナーがあります。被爆者から届いた折り鶴や切り絵などととともに、広島・長崎の被爆当時の大きな地図を貼ってあります。
相談員を待つ間、地図を指でたどりながら、「あの日」を思い出している被爆者が多くみられます。
相談記録は「被爆者の人生の縮図」として
東友会の左側の壁は、ほとんどを、名前で分類した151の相談カルテのケースが占めています。このうち72は亡くなられた被爆者のカルテ。別に、被爆二世のケースが14、毎月対応が必要な被爆者、原爆症認定の申請中などの被爆者のカルテは、17の引き出しに分類しています。これらのカルテは、全体でほぼ5000人分を超えます。
東友会相談員は、区や市の被爆者地区の会に招かれて、地区相談会の講師もつとめます。この相談会は、ほぼ毎年20カ所、500人くらいの被爆者や被爆二世・家族が参加しています。
被爆者の立場にたって相談にのる
東友会相談所には平均すると毎日70件もの面接、電話、手紙やEメールなどでの相談が寄せられています。
内容は被爆者や被爆二世の制度の活用ですが、子や孫への放射線の影響への不安から、家族内のいさかい、医療機関や自治体への苦情まで。自殺をほのめかす相談に対応したこともありました。
被爆者の制度でも、相談したい内容をつかむだけで一苦労することが増えています。物忘れがすすんだ被爆者から同じ内容の電話が日に何度もあったり、自分が何を相談したいのかうまく説明できない、手当の名称を間違える、送ってきた書類がそろっていない、毎月の介護手当の申請を送ってくる家族も高齢で毎月間違えた書類が届くなどなど。ストレスが溜まることもあります。
しかしそこは、「被爆者の相談員」としての自覚と、相談員同士でジョークを言い合ったりして、気分転換をしています。なにより、被爆者・家族からの労いやお礼の言葉が、相談員たちの励みになっています。
東京都の委託事業を54年間担当するなかで東京都との信頼関係もつづいています。
相談事業のなかで、東京都内に住む被爆者の4分の3以上の被爆者(被爆者健康手帳所持者)と、3割以上の被爆二世(健康診断受診票・子:東京都発行)の連絡先がわかり(表に実数)、毎年2回、東京都の委託刊行物「相談のしおり」とA5判20ページのパンフレット『常緑樹』を無料で郵送しています。
年度 | 「被爆者手帳」所持者数 | 東友会掌握数 | 掌握率 |
---|---|---|---|
2011 | 6,758人 | 5,244人 | 77.6% |
2012 | 6,476人 | 5,006人 | 77.3% |
2013 | 6,261人 | 4,835人 | 77.2% |
2014 | 6,010人 | 4,717人 | 78.5% |
2015 | 5,758人 | 4,460人 | 77.5% |
年度 | 「健康診断受診票」所持者数 | 東友会掌握数 | 掌握率 |
---|---|---|---|
2011 | 6,495人 | 2,392人 | 36.8% |
2012 | 6,674人 | 2,412人 | 36.1% |
2013 | 6,883人 | 2,587人 | 37.6% |
2014 | 7,217人 | 2,860人 | 39.6% |
2015 | 7,458人 | 2,568人 | 34.5% |
東京の被爆者運動のセンターとして
相談員のほか東友会には、会計実務を中心に対応する事務局員が勤務。新聞作成やパソコン管理は、専門家に委託しています。
このような体制で、東友会事務局は、相談事業以外に、核兵器廃絶のための被爆証言活動の仲介、原爆症認定に関する裁判の事務局など、多彩な運動に対応しています。