原爆症認定集団訴訟の終結にあたっての特集
2009年8月6日に広島市で日本被団協代表と総理大臣が交わした「確認書」、同日の官房長官「談話」の全文、これを受けて日本被団協と全国原告団、全国弁護団が発表した「声明」を掲載しています。しかし、裁判は東京第2次訴訟は2010年春まで、東京第3次訴訟は1年間はつづきます。東京地裁で勝訴判決を勝ち取った場合は原爆症と認定され、敗訴した場合は「救済」の対象になるからです。
原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書
- 1審判決を尊重し、1審で勝訴した原告については控訴せず当該判決を確定させる。
熊本地裁判決(8月3日判決)について控訴しない。
このような状況変化を踏まえ、1審で勝訴した原告に係る控訴を取り下げる。 - 係争中の原告については1審判決を待つ。
- 議員立法により基金を設け、原告に係る問題の解決のために活用する。
- 厚生労働大臣と被団協・原告団・弁護団は、定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る。
- 原告団はこれをもって集団訴訟を終結させる。
以上、確認する。
平成21年8月6日
- 日本原水爆被害者団体協議会
- 代表委員 坪井直
- 事務局長 田中熙巳
- 内閣総理大臣 自由民主党総裁 麻生太郎
原爆症に関する河村官房長官の談話(全文)
原爆症認定をめぐる集団訴訟の解決に向けて日本被団協・原告団・弁護団と基本方針について、一致をみました。
原爆症認定をめぐる集団訴訟では、本年8月3日の熊本地裁判決を含め、19度にわたって、国の原爆症認定行政について厳しい司法判断が示されたことについて、国としてこれを厳粛に受け止め、この間、裁判が長期化し、被爆者の高齢化、病気の深刻化などによる被爆者の方々の筆舌に尽くしがたい苦しみや、集団訴訟に込められた原告の皆さんの心情に思いを致し、これを陳謝いたします。この視点を踏まえ、この度、集団訴訟の早期解決を図ることとしたものであります。政府としては、これまで拡大してきた原爆症の認定基準に基づき、現在待っておられる被爆者の方々が一人でも多く迅速に認定されるよう努力するとともに、唯一の被爆国として原子爆弾の惨禍が再び繰り返されることのないように、核兵器の廃絶にむけて主導的役割を果たし、恒久平和の実現を世界に向けて訴え続けていく決意を表明いたします。
【声明】 「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」の調印を終えて
2009年8月6日
- 日本原水爆被害者団体協議会
- 原爆症認定集団訴訟全国原告団
- 原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会
- 本日、国は、熊本地裁判決について控訴を断念したうえで、一審勝訴判決に したがい原告の原爆症認定を行うこと、原告に係る問題の解決のために基金を設けること、さらに残された問題の解決を図るために厚生労働大臣との定期協議の場を設けること等、原爆症認定集団訴訟の一括解決を決断し、「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」の調印を日本被団協と行い ました。私たちは今回の麻生総理の決断を心から歓迎します。
- 1945年8月6日、9日、広島市と長崎市に、アメリカ軍が投下した原子爆弾は、広島では14万人、長崎では7万人の市民を殺戮し、二つの町を一瞬にして壊滅させました。
生き残った被爆者にも、がんをはじめ様々な病気が発症し、死の恐怖に怯えながら現在まで苦しみ続けています。
しかし、国は、明らかに放射線に関連するこれらの病気について、2003年提訴当時の被爆者約27万人のうち約2200人(0.81%)しか原爆症と認定しませんでした。
戦後60年を経て、被爆者は「死ぬ前になんとしても原爆被害の残酷な実態を告発したい」との思いで、2003年4月、札幌、名古屋、長崎から原爆症認定集団訴訟を始め、鹿児島にいたるまで全国17の地方裁判所に広げました。
被爆者・原告は、裁判で自分のプライバシーをすべてさらけ出して、この60年間の病気と、生活の苦しみと、心の悩みを裁判所に訴えたのです。
裁判の中では、国が、放射線の被害について、原爆が爆発したときの直爆放射線しか見ておらず、残留放射線や放射性降下物さらに内部被爆を無視して、原爆被害を軽く、狭く、小さな被害として描こうとしていることが明らかになりました。 - 私たちは、2006年5月の大阪地裁での9名の原告全員勝訴に続き、現在まで、二つずつの東京高裁、大阪高裁判決、一つの仙台高裁判決を含む19の裁判所において連続して勝訴してきました。
日本被団協と原爆症認定集団訴訟を支援し核兵器の廃絶を願う市民は、国に対し、原爆症認定集団訴訟の早期の一括解決と、審査の方針(原爆症の認定基準)の被爆実態に見合った抜本的な改訂を求めてきました。その結果、二度にわたる認定基準の改訂を勝ち取ってきました。
そして、今回の確認書の調印により、訴訟の早期一括解決、被爆実態に見合った認定行政への転換に道筋をつけることができました。 - バラク・オバマアメリカ大統領は、本年4月5日にプラハでの演説において、核兵器を使用した唯一の核保有国として、アメリカは行動すべき道義的な責任があるとしたうえで、「核兵器なき世界への共同行動」を呼びかけています。私たちもこの集団訴訟の成果を、核兵器の廃絶に向けた大切な財産としたいと考えています。特に、この核兵器の廃絶の流れの中で、官房長官談話において「唯一の被爆国として、原子爆弾の惨禍が再び繰り返されることのないよう、核兵器の廃絶に向けて主導的役割を果たし、恒久平和の実現を世界に訴え続けていく決意を表明」したことを高く評価します。
- 今回の成果は私たち原告団だけのものではなく、現在生存している23万余の全国の被爆者に共通のものであり、核兵器なき世界を求めて連帯してたたかっている全国の人びと、世界の人びとが共に喜び合えるものと確信します。
しかし、まだ解決しなくてはならない多くの課題が残されています。私たちはそれらを解決するため、みなさんとともに力を尽くすものです。今後ともご支援をよろしくお願いします。
以上