被爆者相談所および法人事務所
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あずま原爆裁判控訴審 国側の控訴理由書の矛盾に反論

 2004年10月26日、あずま原爆裁判控訴審の第2回口頭弁論が開かれた高裁102号法廷は100人の傍聴者と17人の弁護士で満席になりました。入院中の原告・あずま数男かずおさんの代理人席には、東京をはじめ熊本、近畿、名古屋、静岡、千葉、仙台の弁護士がみられました。
 口頭弁論では、横山聡・宮原哲朗弁護士が国側の控訴理由書に対する反論をおこない、近畿の尾藤廣喜弁護士が、長崎松谷裁判、京都小西訴訟の判決にふれた意見陳述をおこないました(要旨は下)。
 裁判の前には、厚生労働省前の街頭で傍聴者が要請行動をおこない、裁判の後は弁護士会館で報告集会が開かれました。

会場前方に並べられた机に弁護士らが座っており、一人が立って参加者に向かって話をしている。
法廷後の報告集会で

弁護団の意見陳述から(要約・文責:編集部)

「未解明」の被害である事実から認定せよ 横山聡弁護士

1 控訴人(国側)は原審(地裁)の判断を、放射線起因性について「高度の蓋然性」を要求せず、立証の程度を軽減したと批判します。しかし(地裁の)判決は、明確に「高度の蓋然性」を踏まえて判断しており、控訴人の批判は全く当たりません。

2 また控訴人(国側)は、放射性起因性の判断は科学的・医学的知見に基づいておこなわれねばならず、その判断に素人的、あるいは被爆者を保護すべきであるといった価値判断を入れたものであってはならない、と批判します。
 原審は、原爆の影響が今なお未解明であるという実態を前提として、被控訴人の被爆状況、被爆後の行動、具体的症状、発症の経緯、健康診断や検診の結果等を全体的、総合的に考慮して被控訴人を原爆症と認定したのであります。
 原審のこの判断は、これまでの判例や立法趣旨にも合致し極めて的確であります。
 控訴人は、被爆者援護法の趣旨・目的を極めて矮小化して解釈しています。そしてこの考え方が、被爆者救済を排除する控訴人の冷たい被爆者行政の基本となっているといわざるを得ません。本件控訴は速やかに棄却されるべきであると思います。

横山聡弁護士

客観的・総合的に研究成果をふまえよ 宮原哲朗弁護士

1 控訴人(国側)は、「疫学は個々の患者についての疾病発生の原因を究明するための決め手とはなり得ない」と主張していますが、東京地裁で原爆症認定を争っている事件(集団訴訟)では「…被爆者に生じたある疾病について、それが放射線被曝に起因するものであるか否かを判定するには、疫学的方法による検討に依拠するほかない」と述べています。控訴人の主張には矛盾があります。

2 控訴人は、放射線と肝機能障害・C型慢性肝炎に関して、戦後積み重ねられてきた一連の研究成果を分断的に捉えています。
(藤原論文などの)研究によれば、「放射線被曝がC型肝炎ウィルス(HCV)感染に関連した慢性肝疾患の進行を促進する可能性を示唆した」ということであり、原判決は、これらの研究の到達をふまえた判断をしています。

3 放射線影響研究所の要覧によれば、「…肝炎症状のないウィルス保因者の割合が、被曝線量とともに高くなっている。これは肝臓癌のリスク増加と関係があるのかもしれない」とされています。原判決は「被曝による免疫力の低下がC型慢性肝炎を発症・促進させたものと推測することには合理性を否定することはできない」と指摘しています。

宮原哲朗弁護士

被爆者の実態を見て救済を考えよ 尾藤廣喜弁護士

1 京都原爆小西訴訟は、1986年に小西建男さんがたった1人で起こした裁判でした。14年間の裁判の結果、小西さんが勝訴しましたが、認定後、約2年4カ月しか生きることができませんでした。

2 この裁判で明らかになったのは、原爆症認定にあたって申請者の具体的な被爆状況、被爆後の行動、内部被曝の有無、被爆後の症状の推移、現在症状の表れた経過とその後の症状の推移などの検討は原則としておこなわれず、ただ推定された被爆線量と申請病名を機械的に付き合わせるという作業をやっていたことでした。

3 この機械的作業の基準が「DS86」やしきい値です。これらが根本的な欠陥をもつことは、2000年7月8日に最高裁が下した松谷さん全面勝訴の判決でも認めていることです。

4 松谷・小西の両裁判の後、厚生労働省は「原因確率」という新しい認定基準を作りましたが、原因確率を適用すれば、松谷さんや小西さんも原爆症認定を受けられません。

5 申請件数に対する原爆症認定率は、制度開始の57年から60年代前半まで80%から90%台であったものが減りつづけ、新認定基準が採用された2001年度は26%、2002年度は19%、2003年度が24%と、逆に厳しくなっています。

尾藤廣喜弁護士

2000超える署名(控訴審) 高裁に提出

 原爆症認定集団訴訟・東京第1次訴訟第7回口頭弁論がおこなわれた10月6日、「東京おりづるネット」は、あずま裁判の控訴審を担当している東京高裁民事19部の岩井俊裁判長に2054通の「あずま数男かずおさんの東京地裁判決を尊重した速やかな公正判決を求めます」署名を提出しました。署名提出には柴田桂馬・おりづるネット副会長と10人の被爆者が参加。束ねた署名を差し出しながら、被爆者としての思いを書記官に伝えました。