原爆症認定の審査基準 「当面の要求」の早期実現を
最低でも高裁判決をふまえた内容に
裁判を起こせば原爆症と認められる被爆者が、厚生労働省に申請しただけでは却下されるという不条理が続いています。日本被団協、東友会、ノーモア・ヒバクシャ訴訟原告団と弁護団は、2018年3月、「一連の高裁判決を踏まえた原爆症認定基準に関する当面の要求」を策定し、その実現を働きかけています。
「当面の要求」の内容を、厚生労働省が示している審査の方針の「積極的に認定する範囲」と対比して掲載します。
厚生労働省が「積極的に認定する範囲」としているがん以外の病名、心筋梗塞、慢性肝炎・肝硬変、甲状腺機能低下症は、直接被爆2キロ以内か、翌日までに爆心地から1キロ以内に入市した人という生存するだけでも厳しい基準を設けたままです。
この状況を打開するために一刻も早い「当面の要求」にそった原爆症認定審査基準の改訂が求められます。
さらに重要な問題は、被爆距離や入市した場所と入市の時期で認定の基準を細かく決めていることです。
認定申請の基準となる被爆者手帳申請時に、「証人がいなかったので、直接に被爆したのに入市でしか認められなかった」「結婚に差し障ると親が遠いところで被爆したように書いた」「役所の人に直接に被爆しているなら入市のことは書かなくていいと言われた」といった状況が続いてきました。このため、手帳申請時の記入内容だけで審査することには、大きな問題があります。
この問題の解決のためには、「当面の要求」を実現させるだけでなく、「被爆者健康手帳を持つ人全てに被爆者手当を支給し、病気や障害の重さで手当を増額する」という日本被団協が掲げている「原爆症認定制度のあり方に関する日本被団協の提言」を実現させることが重要です。
現在の審査基準
厚生労働省の「新しい審査の方針」(平成25年12月16日最終改訂)
- 「放射線起因性」に関わる積極認定の基準
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区分 申請疾病 被爆条件 直接被爆 入市被爆 1 - 悪性腫瘍
- 白血病
- 副甲状腺機能亢進症
爆心地から約3.5キロメートル以内 - 原爆投下から約100時間以内に爆心地から2キロメートル以内に入った
- 原爆投下から約100時間経過後から約2週間以内の期間に、爆心地から約2キロメートル以内に1週間程度以上滞在
2 - 心筋梗塞
- 甲状腺機能低下症
- 慢性肝炎
肝硬変
爆心地から約2.0キロメートル以内 原爆投下後翌日までに爆心地から約1.0キロメートル以内に入った 3 放射線白内障(加齢性白内障を除く) 爆心地から約1.5キロメートル以内 ―― - 「要医療性」の判断
- 申請者の提出した診断書などの医学的資料から、当該疾病の状況に基づき個別に判断する。
- 総合認定
- 積極認定に該当する以外の申請についても、申請者に係わる被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案し、個別にその起因性を総合的に判断する。
日本被団協の「当面の要求」
現在の審査基準(新しい審査の方針)に対して求めている変更です。
強調箇所は、「当面の要求」で変更を求めている内容
申請疾病のうち、囲んであるものは新規の追加を求める病名
- 「放射線起因性」に関わる積極認定の基準について
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区分 申請疾病 被爆条件 直接被爆 入市被爆 1 - 悪性腫瘍
- 白血病
- 副甲状腺機能亢進症
- 心筋梗塞
狭心症 - 甲状腺機能低下症
甲状腺機能亢進症 - 慢性肝炎・肝硬変
- 脳梗塞
爆心地から約3.5キロメートル以内 - 原爆投下から約100時間以内に爆心地から2キロメートル以内に入った
- 原爆投下から約100時間経過後から約2週間以内の期間に、爆心地から約2キロメートル以内に1週間程度以上滞在
2 放射線白内障(遅発性放射線白内障を含む) 爆心地から約1.5キロメートル以内 ―― - 「要医療性」の判断について
- 申請者の疾病に放射線起因性が認められることを前提に、積極的治療行為に限定せず、経過観察が必要な場合を含めて幅広く認めること。
- 総合認定について
- 積極認定に該当する以外の申請についても、被爆から70年以上を経た被爆者の実情と、国家補償的配慮が制度の根底にあることを踏まえ、申請者に係わる被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して、個別にその起因性を総合的かつ柔軟に判断すること。