被爆者相談所および法人事務所
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「原爆症認定訴訟」に決着を 国として責任ある被爆者援護制度に

国は原爆被害への償いに背を向けるな

 2017年は、原爆症認定制度の抜本改善を求める運動の決着をつける年です。東友会は、厚労省が高等裁判所に控訴した7人の原告全員の勝訴を勝ち取るために、被爆者と支援者に協力を呼びかけることを確認しています。

「全面勝訴」「被爆者を苦しめるな」「裁判の早期全面解決を」とそれぞれ書かれた垂れ幕を掲げる弁護士3人と、たすきを掛けた被爆者、支援者たちが写っている。「厚労省は控訴するな」と書かれた紙を掲げる支援者も
被爆者の勝利がつづく裁判(写真は2016年6月の東京地裁判決)

原爆症認定裁判 14年間の成果

 原爆被害の実態に即した原爆症認定制度を求めて、東友会は日本被団協、全国の被爆者とともに、2002年の原爆症認定集団申請運動から14年間、原爆症認定集団訴訟運動をすすめてきました。
 2002年から2003年にかけて全国で呼びかけられた訴訟を目的にした原爆症認定集団申請に、33都道府県から496人、東京では48人の被爆者が参加しました。2003年から11年の原爆症認定集団訴訟、2009年から現在に続くノーモア・ヒバクシャ訴訟に立ち上がった被爆者は418人、うち26%にあたる108人は東京地裁に提訴し、東友会と東京の支援者が支えた原告でした。
 裁判の判決だけを見ても、集団訴訟もノーモア・ヒバクシャ訴訟も原告の9割が勝訴するという行政訴訟の専門家が目を見張る成果を挙げています。集団訴訟ではさらに、83万人を超える署名と衆参両院議員の半数を超える賛同を得、自治体での意見書採択もすすむなど、法廷や厚生労働省前での行動だけでなく、国民の支援を受けた大きな運動に広がり、判決と圧倒的な世論に押された政府が3回にわたって審査の方針を改定しました。
 3回目の改定版「審査の方針」(現行のもの)の内容は下表のとおりです。

2013年12月16日に改定された新しい審査基準
「放射線起因性」の要件
被爆条件 指定病名
  • 被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者
  • 原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者
  • 原爆投下より約100時間経過後から、原爆投下より約2週間以内の期間に、爆心地から約2キロメートルの地点に1週間程度以上滞在した者
  • 悪性腫瘍(固形がんなど)、白血病
  • 副甲状腺機能亢進症
  • 被爆地点が爆心地より約2.0キロメートル以内である者
  • 原爆投下より翌日までに爆心地から約1.0キロメートル内に入市した者
  • 心筋梗塞
  • 甲状腺機能低下症
  • 慢性肝炎・肝硬変
  • 被爆地点が爆心地より約1.5キロメートル以内である者
  • 放射線白内障(加齢性白内障を除く)

 訴訟の経過は、ノーモア・ヒバクシャ訴訟全国弁護団事務局長の中川重徳弁護士の資料を元に、編集部が運動面を追加した一覧をこのページ下に掲載しました。

国は被爆者の死を待っているのか

 しかし、ノーモア・ヒバクシャ訴訟は原告の89%が地裁で勝訴しても、厚労省は「上級審で判決が覆されることもある」などとの理由で控訴を続け、審査方針を改定しません。一方でノーモア・ヒバクシャ訴訟は、被爆者が高齢となり提訴した裁判所も原告の人数も集団訴訟の半分以下になり、裁判所に行くことができない原告、訴訟の途中で亡くなる原告が増え、支援する被爆者も一人では外出できないなど、困難な人が増えています。まさに「厚労省は被爆者が死に絶えるのを待っている」という状態になっていることを表しています。

このままで終わらせないために

 日本被団協と東友会、全国原告団、全国弁護団連絡会は、裁判の全面解決に取り組んでいます。2009年8月6日の日本被団協代表と総理・自民党総裁が署名した「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」に基づき、「訴訟の場で争う必要がない」制度、日本被団協の提言にもとづいた「被爆者手帳を持つ者すべてに被爆者手当を支給する」「障害に応じた手当の加算をおこなう」という制度を実現させるため、運動を強めていきましょう。

原爆症認定訴訟の歩み ――主な判決と成果、出来事を中心に――
月・日 各判決の流れと転機になった主な出来事 判決の結果、その他
1993 5月26日 松谷まつや訴訟・長崎地裁判決 勝訴 〈集団訴訟以前からの個別訴訟〉
1997 11月7日 松谷まつや訴訟・福岡高裁判決 勝訴 〈集団訴訟以前からの個別訴訟〉
2000 7月17日 松谷まつや訴訟・最高裁判決 勝訴 〈集団訴訟以前からの個別訴訟〉
11月7日 小西原爆裁判・大阪高裁判決 白血球減少症で勝訴 〈集団訴訟以前からの個別訴訟〉
2001 5月25日 厚労省「原爆症認定に関する審査の方針」策定(DS86 および原因確率、しきい値)
2002 原爆症認定集団訴訟を目的とした集団提訴(全国33都道府県496人。東京では48人)
2003 4月17日 原爆症認定集団訴訟はじまる(4月17日から全国17地裁へ順次提訴。東京では82人が提訴)
2004 3月31日 あずま訴訟・東京地裁判決 肝機能障害(C型肝炎)で勝訴 〈集団訴訟以前からの個別訴訟〉
2005 3月29日 あずま訴訟・東京高裁判決 勝訴・確定 〈集団訴訟以前からの個別訴訟〉
2006 5月12日 集団訴訟近畿(第1次)・大阪地裁判決 集団訴訟最初の判決。原告9人全員勝訴
8月4日 集団訴訟広島(第1次)・地裁判決 原告41人全員勝訴
2007 1月31日 愛知訴訟 名古屋地裁判決 原告4人中2人勝訴
3月20日 集団仙台・地裁判決 原告2人全員勝訴
3月22日 集団訴訟東京(第1次)・地裁判決 原告30人中21人勝訴
4月 厚生労働省向かいの日比谷公園で3日間の座り込み、デモ行進など。
7月30日 集団訴訟熊本(第1次)・地裁判決 原告21人中19人勝訴。直後に安倍首相(当時)が認定基準の見直しを指示
2008 1月11日 原告団が厚生労働大臣と初の面談。その後、2009年に2回面談。
3月17日 厚労省「新しい審査の方針」策定(2008年4月から実施)2009年の改定を含め原告87人を自庁取消により認定(以下、自庁取消による認定は人数に 含めず)
4月 この間、原爆症認定制度改定署名83万4019人分を政府に提出。国会議員賛同署名は衆院233人、参院123人、全国348議会で意見書採択
5月28日 集団訴訟仙台・高裁判決 原告2人全員勝訴
5月30日 集団訴訟近畿(第1次)・大阪高裁判決 原告9人全員勝訴
6月23日 集団訴訟長崎(第1次)・地裁判決 原告20人中13人勝訴
7月18日 集団訴訟近畿(第2次)・大阪地裁判決 原告11人中10人勝訴
9月22日 集団訴訟北海道(第1次)・札幌地裁判決 原告4人全員勝訴
10月14日 千葉(第1次)・地裁判決 原告2人全員勝訴
2009 1月23日 集団訴訟鹿児島・地裁判決 原告2人全員勝訴
3月12日 集団訴訟千葉(第1次)・東京高裁判決 原告2人全員勝訴
3月18日 集団訴訟広島(第2次)・地裁判決 原告7人中5人勝訴
3月27日 集団訴訟高知・地裁判決 原告1人中1人勝訴
5月15日 集団訴訟近畿(第2次)・大阪高裁判決 原告5人中4人勝訴
5月28日 集団訴訟東京(第1次)・高裁判決 原告11人中10人勝訴(うち3人は逆転勝訴)
5月から6月の期間、厚生労働省向かいの日比谷公園で座り込み行動(第1次4日間、第2次4日間)
6月22日 厚労省、肝機能障害と甲状腺機能低下症を積極認定対象疾病とする(限定付き)
8月3日 集団訴訟熊本(第2次)・地裁判決 原告11人全員勝訴
8月6日 麻生首相と日本被団協が「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」、および河村官房長官談話
11月30日 集団訴訟熊本(第1次)・福岡高裁判決 原告2人中1人逆転勝訴
11月30 集団訴訟神奈川・横浜地裁判決 原告5人中4人勝訴
12月24日 ノーモア・ヒバクシャ訴訟はじまる(2009年12月24日から全国7地裁に順次提訴。東京では32人が提訴)
2010 2月29日 集団訴訟東京(第1次)上告審 最高裁判決 原告1人の請求を棄却(敗訴判決)
3月11日 集団訴訟愛知訴訟控訴審 名古屋高裁判決 原告2人中1人逆転勝訴
3月29日 集団訴訟香川・高松地裁判決 原告1人中1人勝訴
3月30日 集団訴訟東京(第2次)・地裁判決 原告12人中10人勝訴
5月25日 集団訴訟千葉(第2次)・地裁判決 原告2人中1人勝訴
6月16日 集団訴訟岡山・地裁判決 原告1人中1人敗訴
7月20日 集団訴訟長崎(第2次)・地裁判決 原告6人中2人勝訴
12月22日 集団訴訟北海道(第2次)・札幌地裁判決 原告2人全員勝訴
2011 7月5日 集団訴訟東京(第3次)・地裁判決 原告16人中12人勝訴
12月21日 集団訴訟近畿(第3次)・大阪地裁判決 原告3人全員勝訴(集団訴訟最後の判決)
原爆症認定集団訴訟原告306人、勝訴279人勝訴率91.2%(勝訴率に、高裁逆転勝訴、制度改定による厚労省の自庁取消含む)
2012 3月9日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(義務付1次・取消4次)・大阪地裁判決 原告2人全員勝訴
2013 8月2日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(義務付2次)・大阪地裁判決 原告8人全員勝訴
12月16日 厚労省「新しい審査の方針」再改定(限定した非がん疾患の被爆距離などを具体的に記載)
2014 3月20日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(取消5次)・大阪地裁判決 原告5人全員勝訴
3月28日 ノーモア・ヒバクシャ熊本訴訟・地裁判決 原告8人中5人勝訴
4月23日 ノーモア・ヒバクシャ岡山訴訟・地裁判決 原告1人。厚労省の自庁取消による認定後の国賠請求で勝訴。国は控訴断念し謝罪
5月9日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(義務付3次・4次)・大阪地裁判決 原告2人全員勝訴
2015 1月30日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(6次から11次)・大阪地裁判決 原告7人中4人勝訴
5月20日 ノーモア・ヒバクシャ広島訴訟・地裁判決 原告4人中2人勝訴。すべて白内障が申請病名の原告
10月29日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(取消5次)・大阪高裁判決 地裁勝訴の原告1人を国が控訴、高裁で原告敗訴、原告は上告するも最高裁が棄却・不受理
10月29日 ノーモア・ヒバクシャ東京訴訟(第1次)・地裁判決 原告17人全員勝訴
2016 2月25日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟(義務付3次・4次)・大阪高裁判決 地裁勝訴の原告1人を国が控訴、高裁で原告敗訴、原告は上告するも最高裁が棄却・不受理
4月11日 ノーモア・ヒバクシャ熊本訴訟・福岡高裁判決 原告5人中3人勝訴
6月29日 ノーモア・ヒバクシャ東京訴訟(第2次)・地裁判決 原告6人全員勝訴
9月14日 ノーモア・ヒバクシャ愛知訴訟・名古屋地裁判決 原告4人中2人勝訴
10月27日 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・大阪地裁(第7民事部)判決 原告2人全員勝訴

ノーモア・ヒバクシャ訴訟原告121人(2017年1月.25日現在)。地裁判決67人中勝訴55人 勝訴率86.4%(勝訴率に、制度改定による厚労省の自庁取消による認定21人を含む)

2017 原爆症認定制度の抜本解決へ 決着をつけられる年に