在外被爆者の医療費全額支給 最高裁が判決
差別なくす土台は「原爆被害への国家補償」
最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は2015年9月8日、在外被爆者にたいする医療費について、「外国でうけた一般疾病医療費も全額、日本政府が支給すべきだ」とする判決を言い渡しました。「被爆者はどこにいても被爆者」という原則が、医療費についても適用されることを明示したものです。
在外被爆者にとっては、孫振斗・最高裁判決(1978年)で国籍による被爆者健康手帳交付の差別が否定され、郭貴勲・大阪高裁判決(1992年)で居住地による健康管理手当支給の差別が否定され、今度は居住地による医療費の差別も否定されたわけで、原爆被爆者援護法が国家補償的性格を持つべき理由がいっそう鮮明になったといえます。
どこで医療を受けても被爆者援護は平等に
この裁判は、広島で胎内被爆して韓国に住む69歳の男性と、韓国在住の被爆者の遺族2人が、大阪府に医療費を請求しましたが、海外にいることなどを理由に却下されたため、この処分の取り消しを求めて2011年、大阪地裁に提訴したもの。
大阪地裁は13年、医療費の支給を認めました。国と大阪府の控訴で大阪高裁で審理。高裁も地裁判決を支持しました。このため国・府は最高裁に上告。1年の審理の末、最高裁第三小法廷は5人の裁判官全員一致で、国・大阪府の上告を却下しました。
医療費支給をめぐっては福岡、広島両高裁でも審理が続いていますが、最高裁判決をうけて取り下げになります。
国による医療制度の違いが今後の課題
在外被爆者は33カ国に2484人います。これまでは医療費助成として30万円を限度に支給されていました。2014年度の支給額は合計5億6000万円でした。医療制度は国によってさまざまで、ブラジルなどは民間の医療保険に加入していないと医療を受けられません。このため保険料を助成するなどしてきました。厚生労働省は判決に従い全額支給のための手続きをとることにしましたが、国による違いに対応するための調整が今後の課題となります。
政府が原爆被害を償う姿勢こそ重要
今回の最高裁判決は新聞各紙も大きくとりあげ、朝日新聞は社説を出して「在外被爆者 違法状態に終止符を」と呼びかけました。
社説では「広島、長崎の被爆者は国がおこした戦争の結果、原爆の放射線を浴びた。生涯、後遺症に苦しむ被爆者を救済する責任が国にあるという国家補償的な考え方が、被爆者援護法の根底にある」「今回の判決を最後に、国はその場しのぎの歴史に終止符を打つべきだ」と述べています。