被爆者相談所および法人事務所
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原爆症認定申請「照会」増加 審査長期化、申請者や医師の負担増も

 最近、原爆症の認定申請を出してから決定が出るまでの審査期間が長期化しています。その一因は、申請書を出したあとに厚生労働省からの「照会」が大幅に増えていることが挙げられます。この「照会」に対応するため、申請者と家族が費やす時間や労力、資料を出す医師の負担が増えています。この傾向が顕著になってきたことをふまえ、2020年2月以降に東友会で対応した申9件、却下4件)。これらの申請は2018年5月から202請事例から、厚労省が要求してきた「照会」の内容を調べ直して整理し、問題点を洗い出してみました。

 2020年2月から22年2月の間に、東友会が対応した東京在住の被爆者の原爆症認定申請の件数は82件、うち73件は結果が出ています(認定69件、却下4件)。これらの申請は2018年5月から2021年9月までにおこなわれたもので、2022年2月時点で審査中は9件です。
 82件のうち、厚労省から照会があったのは56件(68%)、照会なしは26件(32%)でした。現状では、2021年秋以降の申請(前述の9件)には、すべて照会が届いています。

  • 照会あり 56件(68%)
  • 照会なし 26件(32%)
東友会が対応した直近82件の申請の、厚労省からの「照会」有無

「照会」の実情

 56件の照会のうち、厚労省や東京都、東友会の依頼文を持参しても、医師や病院の窓口で拒否され、厚労省が指定した資料を出せなかった事例が5件、がんの手術前に申請した1件がありました。これら6件のなかには、カルテ開示の請求を出して対応した事例もあります。
 この6件を除いた50件では、照会1回が27件(54%)、2回が12件(24%)、3回以上が11件(22%)でした。心筋梗塞の申請では、救急治療をした病院とかかりつけ医に計4回の照会があった事例がありました。

  • 1回 27件
  • 2回 12件
  • 3回以上 11件
  • その他 6件
厚労省から「照会」のあった56件の照会回数の内訳

 以下に、おもな問題点を挙げます。

薬の投与順序まで要求

 2年ほど前までは、がんで申請する場合、がんであることを証明する病理組織検査報告書や手術記録、CTやMRIなどの画像診断報告書のコピーを添付し、医師が「意見書」に申請時の治療内容を記入すれば「経過観察」の記載でも認定されました。しかし、2020年2月のノーモア・ヒバクシャ訴訟最高裁判決で原告側が「要医療性」で敗訴した後は、前述に加え、抗がん剤治療をしている場合は抗がん剤の名称だけでなく副作用などを抑える薬の名称と量、投与する時間、投与の方法、投与順番、投与する日などがわかる具体的資料の提出が求められ、放射線治療の場合も具体的な照射記録の提出が求められるようになっています。ただし、末期がんと診断された場合は「緩和療法」の記入でも認められています。

25年前の資料を要求

 「起因性」でも克明な病歴の提出が求められるケースが増えています。甲状腺機能低下症で申請した被爆者は、25年も前の「治療前の検査値」を求められました。しかしその医院が移転して行き先がわからず、「カルテの保存期間5年を超えているから資料が提出できない」と回答しても国は資料を要求。医療記録が存在しないならその理由の提示を求められて現在の主治医が立腹し、通院先を変えざるを得なくなったという事例がありました。同様に、皮膚がんで申請した被爆者も、何度も同じような内容の資料提出を求められて主治医との関係が悪化し、やむなく医療機関を変えたというケースもあります。

申請病名の書き直し

 申請者が書く「認定申請書」や「申述書」と、医師が書く「意見書」や「原爆症認定申請の添付書類の確認のための一覧表」の病名を一致させよという照会も頻繁です。たとえば、申請者が「申請書」に「肺がん」の病名を書いていて、医師の「意見書」には「肺腺がん」と記述されていた場合、申請書も「肺腺がん」と書き直せという要求です。同様のパターンで、「胃がん」を「早期胃がん」に、「食道がん」を「胸中部食道がん」に書き直せという事例があります。
 医師が書くのと同レベルで申請者に病名を記入せよという動きは、2021年4月頃から始まりました。しかし、これらの申請者が認定されて届いた厚労省発行の「認定書」には、「肺がん」「胃がん」など申請者が最初に書いた病名が記載されており、申請書の書き直しを求める意味が理解できません。

医師らの負担増も

 従来は努力義務だった「原爆症認定申請の添付書類の確認のための一覧表」の添付が現在では必須にされており、意見書を書いたり追加資料をそろえるなどと合わせ、医師や医療機関の負担が増えています。

まとめ

 照会内容にもよりますが、厚労省からの1回の照会で、申請者やその家族が医療機関に資料提出を依頼するなどのやりとりを経て回答を返すのに1カ月以上かかることがあるため、照会回数が増えるごとに審査が長引く結果になっています。
 他県では、厚労省からの照会は、本人から委任を受けた県の担当者が処理していることが多いです。そのため、ここで述べたような問題は県の担当職員、申請者とその家族にしかわからず、県の被爆者団体は深刻な現状を十分につかめていないと考えられます。
 東友会は、今回調べた内容を厚労省交渉の項目に加えるよう日本被団協、原爆症認定集団訴訟弁護団・原告団に働きかけたいと考えています。

申請 審査(1、2カ月) 厚労省から照会 資料用意(1カ月以上) 厚労省へ返送 審査(1、2カ月) 審査結果

照会が1回のときのおおまかな流れ。照会がなければ、だいたい3カ月から4カ月で審査結果が出ます。