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【解説】 「核兵器禁止条約」成立後の国際情勢
条約の現状、朝鮮半島非核化、被爆国の責務……
弁護士・一般社団法人東友会監事 内藤雅義

核兵器禁止条約の採択とその後

内藤弁護士

 2017年7月7日、国連本部で核兵器禁止条約(「禁止条約」)が採択され、同12月には核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)にノーベル平和賞が授与されました。
 禁止条約は2017年9月20日に署名が開始され、これまでに59カ国が署名、うち10カ国が批准しています。50カ国が批准後90日で条約として発効しますが、2019年前半にも50カ国を超えて、発効することが期待されています。

禁止条約の基本的内容とその意味

 禁止条約の基本的内容は、いかなる場合にも、核兵器を「持たない」、「作らない」、「使わない(威嚇を含む)」、そして、これらの行為への「援助」「奨励」「勧誘」をしないことです。いかなる場合にも禁止される使用には、敵国が核兵器を使った場合の報復(復仇)使用も含まれます。
 そして、決して使われないために「持たない」「作らない」を約束するという「包括的禁止」を定めるだけではなく、いかなる場合にも核兵器が使われないために、「廃絶」の手続も定めています。
 禁止条約のもつ最大の意味は、核兵器の非人道性を基礎にして核抑止を否定し、核兵器のない世界を目指すことにあります。
 核抑止は、いざとなれば核兵器を使うことを前提に、相手国の武力行使を思い止まらせるものです。「決して使わない」と言えば抑止の効果が薄れます。そのため日本政府は、これまで核兵器に対する抑止だけではなく、生物・化学兵器、さらには通常兵器に対する反撃使用を否定せず、オバマ政権が目指した核兵器先制不使用にも反対してきました。
 すでに述べたように、禁止条約では核兵器の復仇、そしてその援助・奨励も禁じられています。従って、日本が禁止条約に入ることは、仮に北朝鮮が日本に核攻撃をしたとしても、アメリカに核兵器の使用を求めないことを意味します。ただし、禁止条約自体は軍事同盟そのものを禁止していませんので、日米安保条約の破棄までは求められません。(核兵器使用を前提とする日米の取り決めは破棄しなければなりません。)

被爆者を先頭に、「核兵器なくそう6.17おりづるパレード」と書かれた横断幕を掲げまちをゆくパレード。
禁止条約採択の瞬間(2017年7月)
写真は国際連合のウェブサイトから引用

署名批准国と核兵器国・核抑止依存国との対立

 核武装国、さらには核抑止依存国は、禁止条約が核抑止を否定するものであることを理由に禁止条約に反対しています。日本政府も、禁止条約の基礎にある核兵器の非人道性の意義を認めつつも、安全保障を無視するものとしてこれに反対しています。核武装国、核抑止依存国と禁止条約署名・批准国の間に溝があることは事実です。
 ここで「安全保障とは何なのか」を考える必要があります。核兵器の出現は、武力によって生命のみならず、将来世代、そして人類そのものを守れないという状況を生みだしました。人類を守れない安全保障とは何なのでしょうか。
 「人道」とは、敵も人間と考えることが出発点です。
 いかなる人間も、核兵器の被害をうけてはならないのです。禁止条約の前文第6段には、「核兵器のない世界の達成と維持」が「世界の最上位にある公共善であり、国及び集団双方にとっての安全保障上の利益に資する」と記載されています。そこにはいかなる場合にも、核兵器を拒否するという被爆者の思想との共通性が示されています。
 こうしてみると、核兵器による安全保障を拒否する禁止条約の持つ意味は、とても大きなものです。その覚悟をして署名した国がすでに59カ国に達しているのです。

米朝協議と禁止条約

 日本が条約に署名・批准するのに反対している人は、署名・批准国とは、日本周辺の安全保障環境が全く異なると主張し、特に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の存在を挙げています。しかし、北朝鮮が核兵器に依存しようとしたのは、アメリカを主要敵国とする朝鮮戦争が終結していないからでした。
 6月の米朝共同声明第3項は、4月の南北首脳会談をふまえ「板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の非核化に全力で取り組む」と記載。その板門店宣言3項(3)には「今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、…平和体制構築のため南北米三者、南北米中四者の会談開催を積極的に推進していく」、3項(4)には、「南北は、完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」と記載されています。
 米朝協議には北朝鮮をインドなどと同様に核武装国として認めてしまう危険性はあります。しかし我々には、日本のことだけではない北東アジア全体の安全保障環境を構築するという姿勢が強く望まれていますから、日本も南北朝鮮とともに、禁止条約に入るという選択肢は十分にあると考えます。