東数男原爆裁判
結審 弁護団最終弁論に感動の涙
東数男原爆裁判が2004年1月14日、東京地裁で結審となりました。弁論の終結を宣言した市村陽典裁判長は、判決日を3月31日(水)午後2時、東京地裁の大法廷、103号法廷ておこなうと決定しました。
1999年6月に提訴してから足かけ5年、東さんの肝機能障害(C型肝炎)を原爆症と認定させるための裁判は、20回の口頭弁論を経て、厚生労働省の却下処分の不当さが徹底的に明確になりました。
最終弁論に臨んだ弁護団は、118ページにおよぶ弁論書の要旨を、6人で担当して陳述。「裁判所は、原爆によってすべての人生を破壊させられた被爆者に、十分な医療と安らぎを与えるような、歴史に残る判決を下されるよう切望する」とのべて弁論を終えました。
傍聴席では、弁護団の迫力のある、条理に満ちた弁論に感動し、ハンカチで涙をぬぐって聞き入る姿も。弁護団に「すばらしい弁論、ありがとうございました」の声がかけられました。
体調がすぐれない原告・東数男さんは、朝子夫人に支えられてあえぐようにして出廷。弁護団と傍聴者にお礼の頭を下げていました。
東数男原爆裁判 弁護団の最終弁論要旨
池田眞規弁護士
原爆症認定行政においては「原爆被害の実相を正しく把握する」ことが不可欠の前提である。しかし、原爆被害は人類が経験したことのない被害であり、被害のごく一部である肝臓の被害さえ病理学的解明は完全になされていない。行政はこの現状認識から出発するべきである。ところが政府は、この現状認識が完全に欠落している。
政府の認定却下は、被告の「原爆投下は国際人道法に違反しない」という見解と無関係ではない。認定却下は取消されるべきである。
安原幸彦弁護士
原告は、(1)爆心地から1.3キロの至近距離で被爆し、重傷を負っている、(2)開いた窓の近くに裸でいて、直爆と同様の状況で被爆している、(3)被爆後、周辺をさまよい放射線に汚染された粉塵や川の水を大量に摂取している、(4)直後から、発熱・血性下痢・脱毛など典型的な放射線による急性症状を呈し、重症であった。原告を被爆2カ月後に診察した日米合同調査委員会の医師は、放射線症と診断している。原告は、死に至るほどの放射線を浴び、その影響を強く受けたことが容易に認められる。
竹内英一郎弁護士
政府が依拠しているDS86は残留放射線や放射性降下物の影響を無視し、それを改善したというDS02は確定文書も出ていない。
残留放射線や降下物の影響、とくに体内被曝が重大な人体影響を及ぼしていることは、入市・遠距離被爆者の多くに急性症状が出ていることで明らかである。
政府が審査の根拠としている原因確率は、ガンマ線より5倍から20倍影響があるという中性子線を線量を単純にたして出している。
原爆被爆は、医療放射線等の部分被曝とは全く異なり、全身被曝である。政府が肝機能障害を生ずるとする10グレイを全身に照射された人間は、全員が1,2週間で死亡する。
原爆による熱傷や外傷、貧困や心理的抑圧も免疫力の低下をもたらしている。
宮原哲朗弁護士
1950年代から広島原爆病院で被爆者の多くに肝疾患があることが報告され、1970年代には「近距離被爆者に高率」との報告があった。
1990年代には放影研の死亡調査で「肝硬変による死亡は放射線量により明らかな増加」との記載がでてきた。1958年からの28年間の調査に基づいたワン論文は「慢性肝炎および肝硬変に統計的に有意な過剰リスクを認めた」と記載されている。
放影研の研究者の一人・藤原医師も、「放射線被曝がC型肝炎ウイルス感染後の慢性肝炎の進行を促進した可能性を示した」と明言している。
内藤雅義弁護士
政府は、医療用放射線で認められた線量を超えない限り肝機能障害は発生しない、C型肝炎ウイルスがある以上、肝炎はウイルスによるもので、原爆放射線の影響はないと主張する。
しかし、ウイルスが肝臓の細胞を傷害するのではなく、体がC型肝炎ウィルスを排除するときに細胞障害が生ずると考えられている。つまり、放射線によって免疫機能が傷つけられているためにC型肝炎が進行するのであり、C型肝炎ウイルスがあるからC型肝炎ウイルスと被爆の影響は関係がないとは言えない。
高見澤昭治弁護士
爆心地から約2.45キロで被爆した松谷さんの脳損傷を原爆症と認めた最高裁判決から導けば、原告の肝機能障害は、放射線被曝とC型肝炎ウィルスが共同成因となり、放射線を致死量浴びたために発症または進行し、認定を導くことも可能との判決が考えられる。
74歳の原告は、病躯に鞭打って必死の思いで法廷に臨んでいる。大法廷を毎回一杯にした被爆者らは、裁判所が理解してくれることを大きな期待をもって見守っている。原爆被害の特殊性を理解し人道に配慮した歴史に残る判決を賜るようお願し、弁論を終る。
晴ればれと報告集会 署名累計8万8000余
閉廷後、弁護士会館で報告集会がありました。東京おりづるネット(原爆裁判の勝利をめざす東京の会)主催のこの集会には、東京と千葉の被爆者、支援の東京原水協、東都生協組合員、ピース・バードの青年、映画監督の橘祐典さん、気象学者の増田善信さんら100人が参加しました。
最終弁論を終えた弁護団は、晴ればれとした表情。「勝利の判決になることは間違いない」「裁判の成果で政府を動かし、世界を動かそう」などと、確信を込めて報告しました。
傍聴者のなかには、集団訴訟の原告5人もいて、「東裁判を勝利し、その力で集団訴訟も勝利しよう」と決意を語りました。
報告集会の後、審理を担当している東京地裁民事2部に「公正判決」を要請する署名1万724人分を提出しました。これで累計8万8856人分となりました。
原爆裁判 「最終弁論書」刊行
東数男原爆裁判の最終弁論書が、「おりづるネット」から刊行されました。「はじめに」「第1 原爆被害の実相」「第2 原告の被爆状況」「第3 放射線の人体影響」「第4 被告の主張」「第5 放射線起因性についての立証責任並びに立証の程度」「第6 まとめ」の6章からなり、最後に、過去と近時の「肝機能障害認定一覧」の資料がついています。原爆被害の実相、国の冷酷な被爆者行政の実態を広げるのに好適です。A4判118ページ(刊行時の頒価は500円)。お問合せは東友会事務局へ。