被爆者相談所および法人事務所
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あずま数男かずお原爆裁判
最終弁論 池田眞規弁護士の意見陳述

 弁論終結にあたり、原告東の原爆症認定の判断について、裁判官諸氏において、原爆被害の実相を正しく把握した上で、判決をして戴きたく、以下、若干述べたいと思います。
 詳細は最終準備書面第1原爆被害の実相に述べてある。
 原爆症認定行政においては「原爆被害の実相を正しく把握する」ことが不可欠の前提である。しかし現在、これが実現できないのである。何故なら、それは人類がかって経験したことのない被害であり、現在の科学は「原爆被害の全体像、つまり被害の実相」はもちろん、その一部である人体の被害の、さらにその一部の肝臓の放射線被害(本件原告の被害)についてさえ病理学的解明は完全になされていないからである。行政はこの現状認識から出発するべきである。ところが被告厚生労働大臣すなわち日本政府には、この現状認識が完全に欠落しているのである。被告が認定行政で採用しているDS86とか原因確率などの認定基準では、最終準備書面第1で記載した原爆被害の実相の説明は不可能である。被告が原爆症認定行政において取るべき方法は、原爆で生じた核分裂により生じた巨大なエネルギー、それは放射線、熱線、爆風となって瞬時に複合的に相乗効果を形成しながら、広島・長崎の生きた街に襲いかかり、巨大なキノコ雲の下では、初期放射線・残留放射線、秒速3~400メートルの爆風、4000度の高熱の熱線が荒れ狂った地獄が広がったのである。特に放射線は空気中の粉塵を放射性物質にして、街は原子の野原と化し、街を彷徨う人間の体内に侵入し長期間にわたり体内被爆を継続することになった。原爆被害はその年内に続いた急性症状だけではなく、晩発性症状は、遅れた原爆死をもたらし、死に至るまでにさまざまな症状が生き残った被爆者を襲い続けるのである。このような原爆被害の全体のなかに原告東は生きてきたのである。原告は原爆被害の全体像を構成するそのなかの一人として捉えなければならない。

 被告の原爆症認定却下は、被告の「原爆投下は国際人道法に違反しない」という見解と無関係ではない。被告の原告に対する認定却下は取消されるべきである。