被爆者相談所および法人事務所
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あずま数男かずお原爆裁判 東京高裁の判決要旨

 あずま裁判の2審判決要旨を掲載します。書式は一部編集しました。

【結論】

 本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。

【争点】

 被控訴人の肝機能障害(C型慢性肝炎)が原爆の放射線に起因するものと認められるか否かである。

【判断の骨子】

(1) 放射線の人体に与える影響については、その詳細が科学的に解明されているとはいい難い段階にあることや、人間の身体に疾病が生じた場合、その発症に至る過程においては、多くの要因が複合的に関連しているのが通常であり、特定の要因によっては当該疾病の発症に至った機序を立証することはおのずから困難が伴うものであることなどからすれば、被控訴人の肝機能障害が放射線起因性を有するか否かを判断するに当たって、被控訴人が原爆放射線を被曝したことによって上記疾病が発生するに至った医学的、病理学的機序の証明の有無を直接検討するのではなく、放射線被曝による人体への影響に関する統計的、疫学的な知見を踏まえつつ、被控訴人の被爆状況、被爆後の行動やその後の生活状況、被控訴人の具体的症状や発症に至る経緯、健康診断や検診の結果等を全体的、総合的に考慮した上で、原爆放射線被曝の事実が上記疾病の発生を招来した関係を是認できる高度の蓋然性が認められるか否かを検討することが相当である。

(2) 放射線被曝による人体への影響に関する統計的、疫学的な知見は、長期的な調査の結果、近年に至ってようやく得られつつあるところであるが、これらの知見によれば、慢性肝疾患、肝硬変及び肝臓がんの中に大きな割合を占めるHCVの持続感染及びその進行によるC型慢性肝炎の発症に対して、原爆放射線の被曝が影響している可能性があるとみることに、相応の根拠が存するものというべきである。そして、HCV抗体陽性者においては、放射線量の増加に伴って慢性肝疾患の有病率が増加しており、放射線被曝がC型慢性肝炎に関連した慢性肝疾患の発症や進行を促進した可能性を指摘する論文も存在することが認められる。上記のような統計的、疫学的知見が存在することに加え、被控訴人の原爆放射線による急性障害の重篤性や、被控訴人の免疫機能が少なくとも一定期間低下した事実、被控訴人の体調はその後回復したものの、被爆後長年月にわたり原子爆弾による影響を様々な形で被っていたことがうかがわれ、被控訴人に生じた健康被害については、被爆後長期間を経過した後に発生したものであっても、一応原子爆弾による被爆との関係を考えることが相当であることなどを併せ考慮すれば、本件認定申請に係る被控訴人の肝機能障害については、被控訴人が爆心地から至近の地点において多大な原爆放射線に被曝したことが、HCVの感染とともに慢性肝炎を発症又は進行させるに至った起因となっているものと認めるのが相当である。

(3) したがって、被控訴人の肝機能障害(C型慢性肝炎)は原爆の放射線に起因するものと認めるのが相当であり、本件認定申請を却下した本件処分は取り消されるべきである。よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却する。