被爆者相談所および法人事務所
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あずま数男かずお原爆裁判
控訴審結審 池田眞規弁護士の意見陳述

 あずま訴訟の控訴審の終結にあたり、原爆症認定訴訟の本質的な問題について、裁判官のご理解を頂きたく一言述べさせていただきます。
 ご存じのとおり、控訴人日本政府は日本の防衛を米国の核兵器の抑止力に依存しております。同時に核不拡散条約に加盟し核兵器開発行為は禁止されています。
 この基本政策により、政府は核兵器の威力に関する具体的な情報の入手は、核実験の結果も含めてすべて米国に依存しております。その結果、原爆被爆者援護行政の一部である原爆症症認定制度の運用に便用される認定基準の作成に当り、専ら米国の核兵器情報に依存するという関係ができ上がっています。原爆症認定に使われる線量推定方式DS86もその一部と考えられます。ところが、意外な事実が分かりました。すなわち米国が原爆を開発した目的は、衝撃波による地上の建物の破壊力の強度を如何に強めるかということであり、熱線や放射線による人体への傷害には関心はなかった、という事実。そして広島や長崎に使用して初めて、熱線や放射線による被害が、想像もしなかった甚大な被害をもたらすことを知ったというのです。(日本放送出版協会発行、NHK広島核・平和プロジェクト著作「原爆投下・10秒の衝撃」序章参照)。この事実を語ったロバート・クリスティ博士は、原爆開発プロジェクトチームのメンバーであり、後にDS86の作成にあたり米国側の科学者をまとめた人物であることも、本件訴訟との関係で象徴的です。しかも同博士は「実際に広島で起こったことは私たちの想像をはるかに超えており、核兵器についてすべてを知っているということは絶対にない」と語っています(「原爆段下・10秒の衝撃」序章)。
 これらの事案は本件の原爆症認定業務の科学性に重大な疑義を提起しています。そもそも、原爆症の認定基準のデータを得るための最も科学的な核実験のデータとは「人々が生活している広島と長崎の街への原爆投下と同じ条件を設定した実験場」で「原爆の人体に対する放射線被書の発生の機序及び原爆症治療の方法の研究を目的」として実施された核実験のデータしかない、のであります。しかしそれを実行することは、人間として絶対に許されないことであります。そうすると、原爆症の認定の基準を作成する場合において、必要な科学的な核実験データを入手することは不可能ということになります。しからば、日本の科学者が、米国の科学者に代わって原爆放射線による原爆症の機序や治療方法を解明することは、もちろん現実に不可能です。ましてや、原爆症認定を申請する被爆者に、原爆症の放射線の起因性を立証する義務を負担させる現行の認定制度は、科学者でさえも立証の不可能なことを被爆者に強いるという非合理かつ残酷な制度であります。
 認定制度を少なくとも科学的に運用しようとするならば、現に原爆症に苦しむ被爆者の被害の実態に基づく認定しかありません。一見明白に「原爆放射線の影響による傷害ではないという証明」がない限り、原爆症と認定する、というのが被爆者にとり最も科学的な認定業務であります。
 被控訴人東は、日本政府の非合理な認定制度と、この制度の非科学的見解による運用のために、一審の勝訴判決を得るまで老後の貴重な10年を超える歳月を浪費させられ、迫り来る原爆死の恐怖に日々怯えているのであります。41年前被爆者への政府の救済制度について、この国の政治の貧困を、判決をもって指摘した東京地裁の先達裁判官の嘆きは、今なお改めらていないのであります。被控訴人東は、今日も病院のベッドで、政治の貧困の犠牲に苛まれながら、原判決の1日も早い実施を待ち続けて、残り少ない命をすり減らしているのであります。どうか、原爆の与えた想像を絶する被害の深刻さに、裁判官の深い洞察をお願いする次第である。