被爆者相談所および法人事務所
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あずま数男かずお原爆裁判
控訴審第1回口頭弁論 安原幸彦弁護士の意見陳述

 被控訴人東数男は、本日、体調不良のため、残念ながら当法廷に出廷することができません。そこで、私が代わって、第1審口頭弁論終結後の被控訴人の病状と控訴審に対する本人の要望などを述べさせてただきます。

 被控訴人は、今年になって、肝臓癌を発症したことが確認されました。この点は後日診断書などを書証として提出いたします。体調不良の原因は、この肝臓癌発症によるものと思われます。

 ところで、控訴人厚生労働大臣の控訴理由書を見ると、随所に、「本件は慢性肝機能障害であって肝臓癌ではないこと」が強調され、被控訴人が根拠とする書証などについて「申請疾患が肝臓がんでない本件においては的はずれである」(37ページ)と主張されています。この主張は、逆にいえば、申請疾病が肝臓癌であれば認定する、というものです。現に行われている認定実務でも、例えC型肝炎由来の肝癌であっても、被控訴人の被曝距離であれば、原爆症認定がされています(この点も後に書証などを提出します)。肝臓癌を発症した被控訴人が、この段階で認定申請をすれば、控訴人は原爆症と認定するでしょう。
 しかし、これは如何にもおかしいではありませんか。肝炎が慢性化し、肝硬変となり、肝臓癌を発症させるのは、素人でも知っている肝臓癌発生の道のりです。この1本筋の道のりの終点に来て初めて原爆症と認定するというのです。本来原爆症と認定して、医療の給付・医療特別手当の給付を行うのは、その給付によって原爆に起因する当該疾病を治療し、被害の回復を図ることにその意義があるはずです。しかるに、肝臓の場合には、肝臓癌の発生を予防する治療が求められる慢性肝炎や肝硬変の段階では医療の給付や医療特別手当の給付を行わず、不幸にして肝臓癌を発症し、治療が困難になってから医療の給付や医療特別手当の給付を行おうというのです。一番大切な時に給付を拒否し、最後のステージに入るまで待てというのは、まさに本末転倒というべきでしょう。しかも、つい最近までは、「申請疾患が肝機能障害」であっても、控訴人はこれを原爆症と認定していたのです。国の被爆者対策の矛盾、ここに極まれり、と言うべきであります。

 被控訴人は、東京地裁の第1回口頭弁論で、次のように述べました。「今回私が許せなかったのは、被爆者の認定申請に対する厚生省の対応です。私の場合、認定申請から却下まで1年9カ月、異議申立から棄却決定まで3年2カ月もかかっています。お役所仕事とはいえ、あまりに時間がかかりすぎます。」。その異議申立棄却決定から1審判決まで、さらに5年が経過しています。つまり、認定申請から10年余りを経て第1審判決が出されたのです。しかも、その1審判決に対して被告は控訴し、まだ時間をかけようとしています。被控訴人は、原爆なんかに負けてたまるかという思いで、懸命に病気と闘ってきました。その間国は被控訴人に何の援助もしませんでした。そして今、肝臓癌というステージを迎えてしまいました。このままこの裁判の結末も知らずに被控訴人が死を迎えるようなことがあれば、被告はその責任をどう取ろうというのでしょうか。被爆者行政の怠慢と不毛の科学論争に巻き込もうとする被告の応訴態度が、この事態を招いたといわざるを得ません。

 被告は、当審においても、積み重ねられた原爆症認定訴訟の判断基準や最高裁判決によって確立された認定手法に反して、なお不毛な科学論争に持ち込もうとしています。また何年もの歳月をこの論争に費やそうというのです。残念ながら、被控訴人はこの歳月に耐えることはできません。
 本訴訟の第1審判決は、被曝の実相を深く理解し、原爆被害の全体像の中で原爆症を捉え、切り捨てに走る認定行政の誤りを正しました。その点で、第1審判決は、被控訴人ばかりでなく、被爆者全体に希望と光を与えました。司法がまさにその本来の役割を果たしたのです。わたしたちは今日苦しみ続けているすべての被爆者ために、輝けるこの判決を何としても守り抜く所存です。
 最後に、被控訴人の言葉をお伝えします。彼が言いたいのは一言だけです。「もうこれ以上苦しめないでください」