原爆症認定集団訴訟 東京第1次訴訟 東京高裁判決骨子 2009年5月28日
見出しの強調等は東友会によるものです。また、原本に丸付き数字などの環境依存文字があった場合は、文字化けを避けるために表記を変更しています。また個人情報保護の観点から、掲載していない部分があります。
文中にその他の誤字・脱字・欠落等がある場合は、ページ用のテキスト作成作業の不備によるものであり、責任は東友会にあります。スキャンした原本を、当時の文字認識アプリケーションで読み込み、読み込み結果を原本と目視で照合しながら修正する作業のなかで生じたものです。
事案の要旨
1 本件は、1審原告ら(訴訟係属中に死亡した者も「1審原告」という。)が、被爆者援護法11条1項に基づき原爆症認定申請をしたところ、却下処分を受けたため、1審被告厚生労働大臣に対し、その取消しを求めるとともに、1審被告国に対し、処分の違法を理由として、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金の支払を求めたものである。
2 原判決は、1(審原告の30名のうち、21名に対する却下処分を違法として取り消し、9名に対する却下処分は適法として請求を棄却した上、国家賠償請求については全員につき理由がないとして棄却した。
1審原告ら及び1審被告厚生労働大臣は、それぞれ敗訴部分を不服として控訴をした。
3 なお、当審の訴訟係属中に、1審原告らのうち20名について(申請疾病の一部の者も含む。)、却下処分が取り消され、原爆症の認定がされた。
《結論》主文(訴訟費用を除く)の要旨(整理)
1 1審原告のうち原爆症の認定を受けた20名の却下処分の取消しを求める請求(1審原告Nは既に認定を受けた申請疾病の部分に関する請求に限る。)は、取消しを求める法律上の利益がなく、当該請求に係る訴えは不適法であるから、これを却下した(主文1項と2項)。
2 前記1で訴えを却下した以外の1審原告11名(一部却下処分が残る1審原告Nを含む。)のうち、10名に対する原爆症認定申請却下処分はいずれも違法であるから、このうち、原判決で却下処分取消請求を棄却された1審原告T、同N、同Wにつき、原判決を取り消して各請求を認容し(主文3項から8項)、他の7名につき、取消請求を認容した原判決は相当であるから、1審被告厚生労働大臣の控訴を棄却する(主文10項)。
3 前記2の11名のうち、1審原告Kに対する原爆症認定申請却下処分について違法はなく、これと同旨の原判決は相当であるから、同人の控訴を棄却する(主文9項)。
4 1審原告らの国家賠償講求は理由がないから、原判決は相当であり、1審原告らの控訴を棄却する(主文9項)。
判断の骨子
1 本案前の判断
原爆症の認定を受けた1審原告20名の取消請求(申請疾病の一部の認定を受けた者についてはその疾病に関する請求に限る。)については、その訴えの利益がなく、不適法な訴えである。その余の10名及び申請疾病の一部の却下処分が残る1名の合計11名の取消請求について実体判断をする。
2
本件の争点は、次の3点である。
- 放射線起因性の判断基準(審査の方針)の当否
- 個別1審原告の原爆症認定要件(放射線起因性、要医療性)の充足性
- 国家賠償請求の当否
3 争点(1)放射線起因性の判断基準(審査の方針)の当否について
(1) 当裁判所は、審査の方針には、次の4点につき、問題があるとして、原爆症認定の判断基準としての適格性を欠くと判断した。
1)審査の方針における線量評価には、基礎となるDS86には自ら認める誤差はあるものの、これを利用することが相当であるが、残留放射線について機械的な線量評価の手法をとる点は問題があり、内部被曝による放射線評価も十分とはいえない点がある、2)被爆者の急性症状に関する調査結果は、明石意見書等による放射線治療に係る知見によるも原爆放射線と関連がないとはいえず、法律判断の前提となるとした、3)原因確率については、線量評価にDS86を用いたことにより過剰リスク算定に正確さを欠くほか、死亡率調査と発生率調査とで過剰リスクに相当差があり、その結果につき一律に10%、50%の基準値を設定したことの正確性に問題がある、4)慢性肝機能障害及び甲状腺機能低下症と原爆放射線の関連性については、これを否定する見解はあるが、その見解が関連性を肯定する知見をすべて否定できたとは認められず、放影研の研究の性格その他を考えるとき、この2つの疾患は原爆放射線と関連性.があるものとして、審査に当たるべきである、とした。
(2) 本件における放射線起因性の有無の判断は、1)線量評価としては、DS86による初期放射線の評価の誤差を意識しつつも、これを尊重し、残留放射線被曝及び内部被曝につき定量的な評価はできないとしても、これを考慮に入れ、2)疾病の原爆放射線との関連性については、放影研の疫学調査結果を中心にこれを検討し、3)1審原告らの個別事情としては、被爆状況、被爆後の行動、被爆後現れた急性症状、被爆前の健康状態、生活状況、被爆後の健康状態、生活状況、申請疾病の内容、発症の経緯等を総合考慮し、4)最高裁平成12年判決が示す原爆放射線被曝の事実が1審原告らの疾病の発症を招来した関係を是認できる高度の蓋然性が認められるかどうかという基準に従い、5)事実認定においては、被爆状況、被爆後の行動については、客観証拠が少ない状況であるが、他の証拠と対比しながら1審原告らの供述を慎重に検討する必要があるとして、検討した。
(3) なお、上記検討の際には、1)最高裁平成12年判決の示す判断基準のほか、2)法律判断の前提としての科学的知見につき、対立する科学的知見がある場合には、厳密な学問的な意味における真偽の見極めではなく、一定水準にある学問成果として是認されたものは、そのあるがままの学的状態で判断の前提とし、3)放射線起因性の有無という法律判断は、確立した不動の科学的知見に反することはできないが、対立する科学的知見がある場合には、それを前提として、全証拠を総合して判断することとし、4)被爆者援護法の国家補償的性格及び被爆者の高齢化に留意すること、を基本とした。
4 争点(2)個別1審原告の原爆症認定要件(放射線起因性、要医療性)の充足性について
(東友会事務局より:個人情報保護の観点から、原告個々人についてかかれたこの部分は掲載しません。)
5 争点(3)国家賠償請求の当否について
本件却下処分当時、原爆症認定について確立した判例があるとはいえず、また、審査の方針については、確立した科学的知見の裏付けがある完壁なものであるとはいえず、被爆者援護法の趣旨に合致したものともいえないが、DS86、児玉論文等の裏付けのもとに策定されたものであって、審査の方針の策定行為が、国家賠償法上違法であるとはいえない。また、審査の方針が機械的に適用されたことを認めるに足りる証拠はない。さらに、行政手続法5条1項、8条1項に違反するとの主張も採用できない。
以上