被爆者相談所および法人事務所
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なぜ被爆者は、集団訴訟を起こしたのか

【注記】

 このページの内容は、原爆症認定集団訴訟運動が始まった2003年に書かれたものです。集団訴訟を経ての厚労省の認定基準改定(2013年12月)、その後のノーモア・ヒバクシャ訴訟など、被爆者と市民の運動を受けて、原爆症認定をめぐる現状は当時とは変化しています。ただし、被爆者側の勝訴が続いたにも関わらず、制度は裁判所の判断に沿ったものになっていません。未だ、被爆者の願いや被爆の実相にふさわしいものとは言えません。
 原爆症認定をめぐる最新の情報は、新聞「東友」のページをご覧ください。

被爆者の思い

 なぜ被爆者たちは立ち上がったのか。訴状は以下のように述べています。

 原告らは、自らが原爆症認定されることにより家族が差別されるかも知れないにもかかわらず自らの身体をもって、さらには被爆体験を語ること自体が多大な苦痛を伴うにもかかわらず、自らの体験を語ることによって、原爆が如何に残酷なものかを明らかにしようとしている。
 そして、わが国が戦争による原爆被害を受けた唯一の国であることや原爆被害の実状が忘れ去られようとしている今日において、自分の苦しみを国に認めさせることにより、日本政府の被爆者政策、そして更には日本政府の核兵器についての政策を転換させ、世界の核兵器の廃絶につなげたいという思いが、原告ら被爆者のこの原爆症認定訴訟に立ち上がらせた理由なのである。
 このことは、原爆の際、自分達の代わりになったかもしれないで死んでいった人々に報いることであり、戦後の自ら受けた苦しみを国に認めさせることにより、自分たちと同じ苦しみを世界中の誰にも再び味わわせることのないように願って、核兵器のない世界をつくる礎となろうとする強い意志に基づくものなのである。

 「遠距離被爆で急性症状もない私ですが、一家で被爆したのは、長崎に動員されていた私だけです。その私だけが、相次いで三つものガンにかかりました。この原因は、原爆以外に考えられません。原爆が半世紀以上もたって、こんな被害を与えることを、みんなに知ってもらいたい。そのために、どうしても国に、原爆症と認めさせたい」
 「たまたまあの日、建物疎開に行かなかったために生き残りました。しかし、同い年の従姉妹が直爆死しました。叔母が会うたびに『あなたは生きていてよかったね』と言いました。あの言葉は善意だったのに、私にはその言葉がつきささって、逃げたくて、逃げたくて、それもあって広島を離れました。ガンの手術を受けてから半年間も傷が塞がらず、そのため、足が不自由になりました。これは原爆のせいだと思います」
 病気とたたかう身をさらして、何年もかかる裁判に立ち上がろうとする被爆者の声です。

 集団訴訟の運動をしらせるリーフレットに掲載されたマンガを掲載します。

原爆投下後、生き残った被爆者はがんや白血病などをはじめとする、原爆によって生じた病気や障害、病気への不安で苦しめられ続けました。被爆者の運動と国民の支持で、一定の被爆者援護制度ができましたが、原爆症認定の門は狭く、国は冷たく却下します。「原爆の被害はたいしたことはない」という態度です。被爆者は、二度と被爆者を生み出さないために、自分の病気を原爆のせいだと認めさせ、原爆被害の深刻さを国にわからせたいと、被爆58年目に集団訴訟を起こしました。
単ページマンガ「なぜ被爆者は原爆症認定集団訴訟をおこしたのか」

国は原爆被害の何を見ていないのか

 国は、原爆がピカッと爆発した瞬間に被爆者がいた場所が爆心地から何キロメートルだったかで、被爆者が受けた放射線の量を機械的に推定し、被爆者の病気にたいして「原爆放射線の影響はない」と断定して、原爆症認定申請を却下しています。けれども、原爆がもたらした放射線は機械的に割り切れるような単純なものではありません。実際、遠距離で被爆した人や、救援・肉親探しなどで原爆の爆発後に市内に入った人たちが、脱毛、下痢、下血、紫斑、歯が抜けるなどの典型的な急性放射線症状を発症して、亡くなり、あるいは今日まで苦しんできたことは否定できない事実なのです。原爆被害は放射線だけではありませんが、とくに国が無視している放射線の被害について説明します。

 実験用に作られた環境ではなく、すべて焼け野原になった真夏の炎天下の環境で、生身の人間が受けた放射線被害という点が、原爆被害の特徴です。

 原爆がもたらした放射線の形態は3種類あります。

原爆がもたらした放射線の形態
放射線の形態 概要 被ばく形態
1.初期放射線 原爆の爆発後1分以内に発生した高線量のもの 外部
2.放射性降下物 「黒い雨』や「黒いすす」など放射能を持った微粒子 外部+内部
3.残留放射線 初期放射線を受けた物質が放射能を持つようになったもの 外部+内部

 国は、このうちの「初期放射線」という高線量被ばくしか見ておらず「放射性降下物」や「残留(誘導)放射線」など低線量被ばくの影響を無視しています。
 けれども、原爆炸裂後、人びとはじっとしていたのではなく、避難したり、救援にかけまわったりして、「放射性降下物」や「残留放射線」を含んだ「すす」や「ほこり」を吸いこんだり、食べ物や水に混じったものを飲食することで、こうした放射性物質を身体の中に摂り込み、身体の外側から(外部被ばくだでなく、内側からも被ばくしているのです(内部被ばく)。「内部被ばく」の影響は、その後も持続し、広い範囲におよびます。

内部被ばく(身体の内部からの被ばく)
  • 放射性物質を含んだ井戸や水道の水を飲んでしまう。
  • 放射性降下物や残留放射線など、いわゆる低線量だが放射性をおびたチリや放射性物質を含んだホコリなどを、救援や捜索の過程で大量に吸い込んでしまう可能性。
  • 放射性物質を含んだチリやホコリをかぶった食物を食べてしまう。

 こうした原爆被害の実態をありのままに見て、原爆症で苦しむ被爆者に援助の手を差し伸べることが、国の責任ではないか──被爆者はそう訴えています。

国の態度

  • 「初期放射線」しかみない。
  • 核実験のデータで放射線量を推定。
  • 審査の時間は1人平均3分前後。
  • なによりも被爆者の実情をみない。