原爆症認定集団訴訟 東京訴訟 池田眞規弁護士の意見陳述
私どもは、本日の法廷を深い悲しみと憤りと固い決意を持って迎えました。
本件訴訟の原告右近さんは、本日の第一回口頭弁論を待たずに死にました。そして三日前に、東京の被爆者団体「東友会」の田川時彦会長が死にました。広島で人類に初めて使われた原爆によって、この世の終わりの地獄を見て、必ず訪れる「遅れた原爆死」を迎えたのです。
本日夕刻、深い悲しみに通夜が行われます。被爆者たちのこの原爆死は、間違いなく米国の非人道の原爆攻撃によってもたらされたものです。このことを忘れてはなりません。この事実を忘れると、人類は核戦争で死滅してしまうのです。だから、被爆者は原爆被害の実態を訴え続けるのです。
田川会長が、58年前に受けた原爆によって、どのような原爆死を迎えたか、を紹介しておきます。
昨年12月、胆ガンが見つかり、そのとき、ガンはすでに肝臓と肺臓に転移して手術は出来ず、通院で化学療法を続けましたが、今年2月に入りガンは骨に転移し、再入院し、食事が通らず、点滴と激痛の鎮静のためのモルヒネと気力だけで、この半年間を、ガンと闘い続けました。
しかもガンとの闘いの中で、彼は東友会の会務の処理や本件被爆者訴訟の準備のための重要な討議にも、激痛を抑えながら、「みなさんの元気をもらいにきた」と笑顔をつくって参加していたのであります。
彼はこの3月には、原爆症の認定申請をし、却下決定が出れば、本件訴訟に原告として参加することを決めていたのであります。原爆と闘い続けた壮絶な被爆者の人生であります。
これらの道は、本件訴訟の原告らも同じ道を歩み続けてきたのであります。原爆被爆者は、この世の終わりを見た、数少ない人類の未来の予言者であります。
裁判官、そして特に被告日本政府の役人諸氏においては、被爆者に対し厳粛にそして謙虚に接していただきたい。かりそめにも、原爆被爆者に対し、傲慢な態度をとらないでほしい。
そして、特に裁判官に対し、聞いていただきたいことがあります。悲しいことに被告日本政府は「核兵器による威嚇または使用は、必ずしも違法とは言えない」という公式見解を世界に公表しております。これくらい被爆者を冒涜することはありません。
被告の原爆行政の誤った基本理念はここから発しているのです。本件訴訟は、被告日本政府の、このような核兵器に対する誤った基本的な姿勢そのものが問われていることを、肝に銘じていただきたい。