原爆症認定集団訴訟 千葉第2次訴訟 千葉地裁判決骨子および要旨 2010年5月25日
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判決理由骨子
1 原告T及び原告Iについては、各原爆症認定申請却下処分が取り消されて申請疾病につき原爆症認定がされたから、上記各処分の取消しを求める訴えの利益は消滅した。したがって、同原告らの訴えのうち、処分の取消しを求める部分は却下する。
2 原告Wは、申請疾病について放射線起因性の要件を満たさず、原爆症認定申請却下処分に手続的な違法も認められないから、同処分は適法である。したがって、同原告の請求のうち、処分の取消しを求める部分は理由がない。
3 原告Nは、申請疾病について放射線起因性及び要医療性の要件を満たすから、原爆症認定申請却下処分は違法である。したがって、同原告の請求のうち、処分の取消しを求める部分は理由がある。
4 原告らに対する各原爆症認定申請却下処分に、国家賠償法1条1項にいう違法があるということはできないから、国家賠償請求はいずれも理由がない。
判決理由要旨
1 原告T及び原告Iの原爆症認定申請却下処分の取消しを求める訴えの利益
原告Tについては、平成20年6月18日に、原告Iについては、同月24日に、それぞれに対する原爆症認定申請却下処分が取り消されたから、上記名処分の取消しを求める訴えの利益は消滅した。したがって、上記各処分の取消しを求める訴えは不適法であり、却下する。
2 放射線起因性の判断基準
「原爆症認定に関する審査の方針」の採用するDS86に基づく被曝線量の推定及び原因確率に基づく放射線起因性の判断については、一応の合理性を肯定することができるものの、DS86及び原因確率のいずれにも一定の限界があり、これらを機械的に適用して放射線起因性を判断するのは相当ではない。
そこで、放射線起因性の判断に当たっては、DS86に基づく被曝線量の推定及び原因確率に基づく放射線起因性の判断を尊重しつつも、その一定の限界に該当し得る事案であるかどうか、そうであるとすれば原告らの疾病が原爆の放射線被曝によるものであるかどうかについて、具体的な被爆状況、急性症状の有無、態様、程度及び経過、被爆後の行動及びその後の生活状況、申請に係る疾病等の症状及び発症に至る経緯、治療の内容及び治療後の状況、その他の病歴等を総合的、全体的に考慮した上で、放射線被曝による人体への影響に関する統計学的、疫学的、臨床的、医学的知見等を踏まえつつ、原爆放射線被曝の事実が上記疾病等の発生又は進行を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして検討するのが相当である。
3 各原告らの原爆症認定要件該当性
(1) 原告Wは、申請疾病である両眼白内障(原爆白内障)について放射線起因性の要件を満たすということはできない。また、同原告に対する原爆症認定申請却下処分に手続的な違法も認められないから、同処分は適法である。したがつて、同原告の請求のうち、処分の取消しを求める部分は理由がない。
(2) 原告Nは1申請疾病である甲状腺機能低下症について放射線起因性及び要医療性の要件を満たすということができるから、原爆症認定申請却下処分は違法である。したがって、同処分を取り消す。
4 国家賠償請求の成否
原告らに対する原爆症認定申請却下処分(ただし、原告T及び原告Iについては、却下処分が見直され、申請が認容されている。)については、処分行政庁が放射線起因性の判断をする上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と却下処分をしたということはできない。また、(原告らに対する原爆症認定申請却下処分に行政手続法5条1項、7条、8条違反、条理上の作為義務違反があるということはできない。したがって、上記各処分に、国家賠償法1条1項にいう違法があるということはできないから、原告らの各損害賠償請求はいずれも理由がない。