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原爆症認定集団訴訟 高松地裁判決についての声明

2010年3月29日

  • 原爆症認定集団訴訟高松弁護団
  • 原爆症集団訴訟高松支援の会
  • 原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会

1 はじめに

 本日、高松地方裁判所民事部(吉田肇裁判長)は、原爆症認定集団訴訟高松訴訟につき、厚生労働大臣の原爆症認定却下処分を取消し、原告の肝がんを原爆症と認める判決を言い渡した。
 高松訴訟は、昨年8月6日に、国が原爆症認定集団訴訟の一括解決を決断し、日本被団協との間で調印した「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」の当時、未判決であったため、その後も審理が継続して本日の判決を迎えたものである。「確認書」により原・被告双方が本判決に控訴しないことにより判決が確定し、原告の原爆症認定がなされることになる。

2 判決の評価

 本件判決は、これまでの集団訴訟の判決と同様、下記のとおり判示した。
 被曝放射線量の評価に関するDS86、02等に関しては、残留放射線の影響の程度や内部被曝の評価について過小評価していると考えられ、これを前提に放射線起因性を判断することは相当でないとした。また、被爆者援護法の国家補償法的性格を有していることを考慮して放射線起因性を判断しなければならないとした。
 そもそも、本件原告は、原爆投下後、長崎に入った入市被爆者であるが、入市日に争いがあるものの、申請疾病名は、肝がんであり、これまでの集団訴訟判決で示された司法判断に従えば、とうに認定されていてしかるべき原告であり、その救済は遅きに失したという他ない。

3

 本日の判決は、原爆放射線による数々の後障害に苦しみ、被爆者であることを知られることをおそれ、被爆後64年間生き抜いてきた原告の苦しみ、あの過ちを2度と繰り返してはならないとの思いを正面から受け止めたものであるとともに、2008年4月の「新しい審査の方針」に基づく現在の原爆症認定のあり方も被爆の実情を反映せず、司法判断が示してきた水準にも到達しない不合理なものであることを改めて明らかにしたものである。
 また、本件原告は、匿名のまま判決を迎えざるを得なかったが、そのことは何よりも被爆者に関わる問題が未だ全面解決されていないことを示している。

4

 ところで、「確認書」が取り交わされるまで、原爆症の認定の滞留者は8000名近くに及んでいたが、厚生労働省は、確認書締結後、急速に却下を出し続け、本年2月には500人近い却下処分を出すに至っている。これは、「今後、訴訟の場で争う必要のないよう」定期協議の場を通じて解決を図るとした「確認書」の趣旨にもとる事態である。
 厚生労働大臣は本日の判決を受け、立法解決を待つことなく、直ちに、原爆症認定行政の抜本的転換を行なわなければならない。そして原爆症認定を待つ被爆者の認定を促進し、今後被爆者が安心して原爆症の認定を受けられるようにすべきである。
 本日の判決は、そのことを国に改めて求めたものというべきである。

5

 現在、世界には核兵器の恐ろしさ、残虐さへの認識から、核兵器廃絶に向かう大きな流れが生じつつあり、本年5月にニューヨークで行われるNPT再検討会議には日本からも被爆者をはじめ多くの市民が参加する。
 今こそ、唯一の被爆国である我が国政府は、核兵器の惨禍を繰り返してはならないという思いから立ち上がった被爆者の声に耳を傾け、苦しみに目を向け、そして被爆者の訴えを世界に発信し、核兵器廃絶に向けた主導的な役割を果たすべきである。原爆症認定問題の解決はその第一歩である。

以上