原爆症認定集団訴訟 熊本第2陣訴訟 熊本地裁判決要旨 2009年8月3日
第1 主文の概要
- 厚生労働大臣が、次の各人に対し、次の各処分日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく認定申請の却下処分をいずれも取り消す。(東友会注:個人情報保護の観点から、氏名等は掲載しません)
- 厚生労働大臣が、次の各人に対し、次の各処分日付けでした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく認定申請の却下処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。(東友会注:個人情報保護の観点から、氏名等は掲載しません)
- 原告らの被告に対する各損害賠償請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
原告ら又は原告らの被相続人は、いずれも原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)にいう被爆者であり、自らの疾病等が原爆の傷害作用に起因する旨の認定(原爆症認定)の申請をしたところ、厚生労働大臣から却下された(本件各却下処分)。そのため、原告らは、被告に対し、本件各却下処分の取消しを求めるとともに、国家賠償法に基づき、被爆者1名につき300万円の慰謝料等の支払を求めた。
なお、原爆症認定の要件は、(1)被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)、(2)現に医療を要する状態にある疾病等が原爆放射線に起因するものであるか、又は上記疾病等が放射線以外の原爆の傷害作用に起因するものであって、その者の治癒能力が原爆放射線の影響を受けているため上記状態にあること(放射線起因性)の2つであり、本件各却下処分に係る審査においては「原爆症認牢に関する審査の方針」(旧審査の方針)が基準とされている。
第3 理由の要旨
1 争点(1)(原告S、原告H及び原告Iらの各原爆症認定申請却下処分取消請求に関する訴えの利益〔本案前の争点〕)について
厚生労働大臣は、原告Sに対する却下処分及び原告Hに対する却下処分の全部並びに亡Iに対する却下処分のうち申請疾病を肺がん及び肝がんとする部分をいずれも取り消して、各原爆症認定申請に基づき、申請疾病について原爆症認定をしたのであるから、原告Sに対する却下処分、原告Hに対する却下処分及び亡Iに対する却下処分の各取消しを求める法律上の利益はいずれも消滅したものといわざるを得ない。
2 争点(2)(放射線起因性の判断基準)について
旧審査の方針において原因確率が設定されている疾病の放射線起因性の判断に当たっては、同方針に従って算定された原因確率を飽くまでも一つの考慮要素として用いるのにとどめて、当該申請者の被爆状況、被曝後の行動、被爆直後に生じた症状の有無、発症時期、内容及び程度、被爆前後の生活状況及び健康状態、当該申請疾病等の発症経過及び病態並びに当該申請疾病等以外に生じた疾病の有無及び内容などを全体的、総合的に考慮した上で、原爆放射線被曝の事実が申請疾病等の発生(発生を促進ずる場合を含む。)又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして検討すべきである。また、旧審査の方針において原因確率が設定されていない疾病等の放射線起因性の判断に当たっても、上記諸事情を全体的、総合的に考慮した上で、上記の高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして検討すべきである。
3 争点(3)(本件被爆者らの原爆症認定要件該当性)について
前記2の基準に則して、各被爆者の申請疾病の原爆症認定要件を検討すると、別紙原爆症認定要件該当性等一覧表記載のとおりとなる。(東友会注:個人情報保護の観点から、この「別紙」は掲載しません)
4 争点(4)(本件各却下処分についての不法行為の成否)について
厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件各却下処分をしたという事情は認められず、また、本件各却下処分は、行政手続法等にも違反していないから、厚生労働大臣による本件各却下処分が国家賠償法1条1項の適用上違法ということはできず、不法行為は成立しない。
以上