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原爆症認定訴訟 熊本第2陣訴訟 熊本地裁判決を受けての申入書

2009年8月4日 厚生労働大臣 舛添要一 殿

  • 日本原水爆被害者団体協議会
  • 原爆症認定集団訴訟全国原告団
  • 原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会

 昨日、熊本地方裁判所は、原爆症認定熊本訴訟(第2陣)に関し、未認定原告10名全員の却下処分を取り消す勝訴判決を言い渡しました。
  私たちは、2009年5月28日の東京高裁判決を踏まえて、同日、大臣に対して以下の申し入れを行いました。
  昨日の熊本地裁(第2陣)判決を踏まえて、大臣に対して再度申し入れを行いますとともに、直ちに大臣によるご決断をいただきたく要請いたします。

申し入れの趣旨

 私たちは、厚生労働大臣が被爆者・原告らに謝罪したうえで、熊本判決に対する控訴を行わないなど、8月6日までに下記の内容で全国の原爆症認定集団訴訟を解決することを要請します。

  1. 原告全員救済による訴訟の全面解決
    1. 裁判所で勝訴している原告を直ちに認定すること。
    2. 未判決あるいは敗訴の原告についても、被爆者救済の立場で対応すること。
  2. 司法判断に沿った認定基準の改定
    1. 心筋梗塞、 肝機能障害、甲状腺機能障害を無条件で積極認定に入れること。
    2. 被爆者のがんは幅広く原爆症と認定すること。
    3. 総合判断の疾病の認定についても、これまでの判決にしたがい「疑わしきは被爆者の利益に」の立場で認定にのぞむこと。

申し入れの理由

 私たちが原爆症認定却下処分の取り消しを求めて集団で提訴してからすでに6年を経過しておりますが、現在まですでに14地裁、5高裁で原告勝訴の判決が下されています。また、この裁判の過程で、厚生労働省はようやく認定基準の見直しを行ない、昨年4月から「新しい審査の方針」による原爆症認定審査が始まりました。しかし、この見直しによっても、勝訴原告が認定されない、8000名近い申請者が放置される等、いまだに多くの問題が残されており、司法と行政の乖離は依然として解決されておりません。

 こうしたなか、5月28日東京高等裁判所は、これまでの地裁・高裁判決を集大成した判決を言い渡しました。その中で裁判所は、被爆者援護法の前文をふまえて「単なる社会保障的観点に基づくものではなく、戦争遂行主体であった国の国家補償的措置として行われるものである。」と判示しました。起因性の判断基準についても、対立する科学的知見がある場合には、厳密な学問的な意味における真偽の見極めではなく、それを前提として全証拠を総合して判断すると判示し、さらに「審査の方針」には、欠陥があり、判断基準それ自体に合理性を欠くと判示しました。また、肝機能障害及び甲状腺機能低下症の放射線起因性を明快に肯定しました。さらに、4キロメートル、5キロメートル及び120時間以降の入市のがんについても放射線起因性を認めました。

 河村建夫官房長官は、かねてから「東京高裁判決が一括解決のタイムリミット」と述べております。また厚生労働省も、「原爆症認定集団訴訟と認定基準の改定に関して、5月末までに予定されている大阪高裁判決、東京高裁判決などの司法判断を踏まえて最終的な判断をする」と明言しておりました。
  14の地裁判決、仙台高裁判決、第一次大阪高裁判決、千葉事件東京高裁判決、第二次大阪高裁判決、東京高裁判決そして、昨日の熊本地方裁判所原告全員勝訴判決によって、既に司法の判断は不動のものとなりました。被爆者全員救済に向けて迷う必要はありません。
  しかるに、厚生労働省は東京高裁判決後も、訴訟の全面解決をさまざまな形で妨害し、今日まで解決の枠組みすら提示していません。その結果、19度目の熊本地裁判決に至り、しかも原告全員勝訴の判決でした。認定基準については、肝機能障害と甲状腺機能低下症を積極認定に加えましたが、、そこには「放射線起因性が認められる」という奇妙な限定が付されています。これでは司法判断を充分に生かした認定基準とは言えません。

 本年4月5日、アメリカのオバマ大統領は、プラハにおいて、核兵器を使用した国としての道義的責任にふれながら、核兵器の無い世界に向けて行動することを明言しました。被爆国日本としては、病気や差別とたたかいながら身をもって原爆被害を告発した集団訴訟の原告・被爆者の声をうけとめ、被爆の実態に即した原爆症認定制度を確立し、世界に核兵器の残虐性を示すことが求められています。

 集団訴訟の提訴以来すでに68名の原告が亡くなっており、病弱な被爆者に裁判を重ねる時間はありません。今こそ、原爆症認定集団訴訟の全面解決のときです。ここに、8月6日までに原告の全員救済と認定基準の再改定を行うことを強く求めるものです。

 大臣のご決断を要請します。

以上