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原爆症認定集団訴訟 北海道第2次訴訟 札幌地裁判決要旨 2010年12月22日

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判決要旨

1 当裁判所は、以下の点を考慮して、原告の被告に対する、厚生労働大臣が平成17年6月21日付けでした急性心筋梗塞を申請疾病とする(原爆症認定申請を却下する旨の処分の取消請求は理由があるからこれを認容し、被告に対する損害賠償請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。

2 旧審査の方針において従前用いられてきた線量評価システムであるDS86及びDS02は、原爆による放射線被ばく線量を推定する上で、現段階における研究の成果として一定の合理性を有する線量評価システムであるといえる一方、原爆の実態を正確に反映しているかという観点からは、なお被ばく線量の推定には限界があり、実際に、上記線量評価システムが計算に入れていない被ばく態様の人体への影響の可能性が指摘されている。
 また、原因確率の前提となる放影研の疫学調査についても、一定の合理性を有するものの、調査期間や解析方法等に限界が指摘され、原因確率についても、寄与リスクを原因確率として個人の放射線起因性判断に適用することに疑問が呈されている。
 以上のとおり、旧審査の方針が前提の知見として採用していたDS86、放影研による疫学調査及び原因確率等は、一定の合理性が認められるものの、一方で各知見にはそれぞれ限界があることからすれば、訴訟において放射線起因性の立証の有無について判断する際には、放射線起因性に係る知見には一定の限界があることに留意しつつ、被爆者援護法の趣旨及び目的を損なうことがないように、経験則に照らして全証拠を検討すべきである。
 具体的には、被爆状況、被爆後の行動、被爆直後に生じた症状の有無、発症時期、症状の内容及び程度、被爆前後の生活状況及び健康状況、申請疾病等の発症の経緯、他の疾病発症の有無等を総合的に考慮し、放射線起因性の立証がされているか否かを判断することが相当である。そして、その際、疾病は多くの要因が複合的に関連して発症することが一般的であり、疾病発症の特定の要因や、その機序を一義的に医学的に証明することは著しく困難であることにも留意されなければならない。
 また、旧審査の方針において、原因確率が設定されていない疾病等についても、原爆放射線の影響が及んでいると疑われ、それに沿う相応の研究の成果が存在している疾病については、他の証拠との関係を十分慎重に検討しつつ、放射線起因性の立証の有無について判断する必要がある。

3 原告は、爆心地から2キロメートル地点で被爆しているところ、被爆後の行動等も併せ考慮すると、相当多量の放射線に被ばくしたと推認することができる。
 また、様々な観点から放射線被ばくに起因する心筋梗塞発症の可能性が示されていることに加え、原告の被爆時年が一般に放射線感受性が強いと言われる若年であること、原告は心筋梗塞以外に賢細胞がんをも発症し、同疾患については原爆症認定を受けていることからすれば、原爆による放射徽ばくが原告の申請疾患である急性心筋梗塞の発症あるいはその進行の促進に寄与していると考えることが合理的である。
 この点.原告は、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙歴等のいわゆる心筋梗塞の危険因子を有しているものの、高血圧、高血圧、高脂血症及び糖尿病については、その放射線起因性について一定の範囲で認められるとの知見があることからすれば、これらの疾患の存在をもって、原告の急性心筋梗塞の放射線起因性を直ちに否定することは相当ではない。また、喫煙が原告の急性心筋梗塞の発症に何らかの寄与をしていることはあり得るにしても、それのみが原因となって急性心筋梗塞を発症したとする確たる証拠もないから、原告の喫煙歴をもって、直ちに原告の急性心筋梗塞に対する放射線被ばくの影響を否定するものと評価することは相当ではない。
 上記検討に加え、被爆者援護法の趣旨及び目的も踏まえるならば、原告においては、原爆による放射線被ばくが、急性心筋梗塞発症という特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を有すると認めることが相当である。

4 厚生労働大臣において、申請疾病を腎細胞がん及び急性心筋梗塞とする原告の各原爆症認定申請に対する各却下処分及び原爆症認定のための指針策定について、その職務上、通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認めることはできず、その他厚生労働大臣の注意義務違反を認めるに足りる証拠はない。

以上