【詳報】原爆症認定「審査基準」改定 「確認書」は守られたのか
2013年12月16日、厚生労働省が改定した原爆症の認定基準についてお知らせします。
これまでの経過
厚労省は、国が相次いで敗訴した原爆症認定集団訴訟を受けて、2008年3月に原爆症認定基準「新しい審査の方針」を策定、4月からこの基準を使った審査を開始しました。さらに国の敗訴がつづいたため2009年6月には、この新基準を改定。8月6日に、麻生太郎首相・自民党総裁(当時)と日本被団協の坪井直代表委員、田中煕巳事務局長が「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」を交わし、「今後、訴訟の場で争う必要のないよう定期協議の場を通じて解決を図る」ことを確認しました。これを受けて、2010年12月に設置された有識者検討会が、「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」でした。
ところが、その後も、原爆症認定の審査を担当する厚労省の被爆者医療分科会では、「放射線起因性が認められる」という文言が付け加えられた心筋梗塞、甲状腺機能低下症、肝機能障害の非がん疾患を中心に、裁判所の判決とかけ離れた審査をつづけてきました。
改定された「基準」
そのため、被爆の実態に即した認定を求めて各地で原爆症認定を求める裁判がおこされ、2013年12月3日に、東京、名古屋、大阪、岡山、広島、熊本、長崎の各地裁に提訴した103人の原告が「ノーモア・ヒバクシャ訴訟全国原告団」を結成しました。
一方、「訴訟の場で争う必要のない」ことを目的に設置された有識者会議は、3年間で26回開催され、2013年12月4日の最終報告に発表しました。その報告は、非がん疾患については、判決との隔たりを固定化するものでした。これを受けて、12月16日に開かれた厚労省医療分科会で再々改定されたのが、今回の基準です。改定基準は、「放射線起因性」の要件で、従来は一まとめになっていた被爆条件と指定病名について、疾病と被爆条件を細分化したことが特徴です。
「要医療性」については、これまでの要件から変更点はありません。おおまかな特徴を以下にまとめました。
原爆症認定審査で「積極認定」が認められるための審査基準
「放射線起因性」の要件と「要医療性」の要件の両方を満たしている必要がありますが、今回変更されたのは「放射線起因性」の要件のみです。
「放射線起因性」の要件
被爆条件 | 指定病名 |
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被爆条件 | 指定病名 |
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「要医療性」の要件
今回の改定での変更はありません。申請時に、指定病名の疾病で治療や経過観察を必要としている状態であることが必須条件です。
- がんや白血病の場合は、手術や化学療法などの治療が終わって5年以上過ぎていて、経過観察を受けているだけのときは、「要医療性がない」として認定されません。
- ファイバーで切除した胃がん、大腸がんはの場合は、手術後1年以上過ぎていると認定されません。
- 放射線白内障は、手術を予定していて、申請時に手術をしていない人のみが対象とされています。
反映されなかった被爆者の願い
この新しい基準について、ノーモア・ヒバクシャ訴訟東京弁護団団長の内藤雅義弁護士は、「改悪された」と評価しています。非がん疾患のうちの心筋梗塞などは、これまでは「放射線起因性が認められる」という文言がつけられていましたが、直接被爆者の場合は3.5キロ以内が2キロ以内に、入市被爆者の場合は100時間(ほぼ4日)以内に2キロ以内が、翌日以内に1キロ以内、と大幅に狭められたからです。
白内障については、さらに、放射線起因性が低いとされ、「放射線白内障」という文言を残した上で、1.5キロ以内直接被爆のみ、入市被爆者は認めないことを基準に明記しました。
司法判断との食い違いはますます顕著に
新基準を使った審査は1月から始まります。現在裁判を起こしているノーモア・ヒバクシャ訴訟の原告も、新基準で改めて審査されます。しかし、大阪地裁で勝訴し国が控訴せずに原爆症と認定した10人の原告のうち、新基準で認定される可能性があるのは1人だけという状況です。これは、「訴訟の場で争う必要のないよう解決を図る」とした確認書を反故にするものです。
ノーモア・ヒバクシャ大阪訴訟で勝利した10人の原告
- 心筋梗塞(広島2.5キロメートル直爆8月9日入市)
- 心筋梗塞(広島3.5キロメートル直爆8月8日入市)
- 心筋梗塞(広島3.6キロメートル直爆8月6日入市)
- 心筋梗塞(広島8月6日から8日入市)
- 心筋梗塞(長崎2.5キロメートル直爆)
- 心筋梗塞(長崎4.5キロメートル直爆8月11日から15日入市)
- 狭心症(長崎8月10日入市)
- 慢性甲状腺炎〈橋本病〉(広島8月10日入市)
- 甲状腺機能低下症(長崎8月9日入市)
- 甲状腺機能低下症(長崎2.1キロメートル直爆8月11日入市)