原爆症認定制度の変遷――何が前進し何が変わっていないのか
被爆者が求める本当の解決とは?
原爆被害を「軽く小さく狭く」評価し、被害への償いを拒んできた国の姿勢を根本から改めさせたい、そのために原爆症認定の枠を広げよう、それが核兵器被害の実態を知らせることにもつながると、被爆者は2003年4月から原爆症集団訴訟運動をすすめてきました。
最初の集団提訴から5年となった2008年4月、政府はこれまでの基準を大幅に広げた「新しい審査の方針」をつかった審査を開始しました。これは、原爆被害の実態に即した基準を求める被爆者の声に共感した各地の裁判所の判決と国民世論に支えられた与党PT、野党各党が一致したはたらきかけによるものでした。厚労省は、この結果、2008年度1年間で2007年度の24倍になる2969件を認定したと発表しています。
しかし「新方針」も不十分だという被爆者の主張を受けた裁判所は、厚労省の基準を超える原告を勝訴させつづけ、2009年5月の東京高裁判決では、甲状腺機能低下症と亢進症、C型肝硬変の原告や直接被爆で4キロから5キロ、原爆投下から120時間以降に入市した被爆者のガンを原爆症と認定しました。
この東京高裁判決を受けた厚労省は、6月22日の医療分科会で甲状腺機能低下症と慢性肝炎・肝硬変を「積極認定」の指定病名に追加しましたが、心筋梗塞や白内障と同様に、あらためて「放射線起因性」を審査するという方針を明らかにしました。これらの審査結果はまだ届いていませんが、心筋梗塞や白内障の事例から、厳しい枠が設けられるものと推測されます。
認定のありかたがどのように変わってきたか、またその実績などをまとめました。
集団訴訟によって原爆症認定のあり方がどのように変わったか
従来の認定基準
認定基準
- DS86による線量評価
- 「原因確率」10%以上の機械的な適用による切り捨て
- 爆心地から約1.5~2キロ以内に限定
実績
- 評価点:なし
- 問題点:認定は2000人程度(全被爆者の1%未満)
2008年4月からの「新しい審査の方針」
認定基準
- 自動認定
- 「原因確率」10%以上は審査を省略して認定
- 積極認定
- 積極的に認定する範囲
- 爆心地から約3.5キロ以内での直接被爆
- 原爆投下後約100時間以内に爆心地から約2キロ以内に入市
- 原爆投下約100時間以後から約2週間以内に爆心地から約2キロ以内の地点に1週間程度滞在
- 指定病名
- 悪性腫瘍:固形ガンなど、白血病
- 副甲状腺機能亢進症
- 放射線白内障(加齢性白内障を除く)
- 放射線起因性が認められる心筋梗塞
- 総合審査
- その他は、被曝線量、既往歴、環境因子、生活暦などを勘案して総合判断
実績
- 評価点:自動認定による審査の簡素化、積極認定の範囲の拡大などの前進。とくに積極認定のうち悪性腫瘍関係は年間諮問件数2656件のうち2486件(93.6%)の認定
- 問題点:対象病名が限られている。積極認定のうち放射線起因性の条件付けの疾病の認定率は38.3%。滞留件数が多い。
2009年5月の東京高裁判決後の改定
認定基準
- 自動認定
- 変わらず
- 積極認定
- 積極的に認定する範囲
変更なし - 指定病名
2件追加- 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症
- 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変
- 総合審査
- 変わらず
実績
- 評価点:未定
- 問題点:懸念事項として、追加病名に「放射線起因性」の条件付けがあること。
被爆者が願うのは……
原爆被害の実情に合致した原爆症認定を 集団訴訟の全面解決と原告全員救済へ
厚生労働大臣は被爆者・原告に、これまでの認定のあり方の問題を謝罪した上で……
- 裁判で勝訴した原告をただちに原爆症と認定すること。
- 未判決あるいは敗訴の原告についても、被爆者救済の立場で対応すること。
- 肝機能障害と甲状腺機能障害を積極認定に入れること。
- 被爆者のガンは幅広く原爆症と認定すること。
- 「総合判断」の疾病の認定についても、「疑わしきは被爆者の利益に」の立場で認定に臨むこと。