被爆者相談所および法人事務所
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厚労省が原爆症認定の新たな「審査のイメージ」

「被爆者を線引きするな」と要請行動

 厚生労働省は2008年1月17日、原爆症認定について「新しい審査のイメージ(案)」を公表。21日の「被爆者医療分科会」で報告され、その方向で新しい審査方針の具体化を進めることが承認されました。
 「新しい審査のイメージ(案)」の内容は、同省が進めてきた「原爆症認定に関する検討会」の「報告」は一切無視。「与党プロジェクトチーム」が発表した「原爆症認定問題のとりまとめ」の内容を大筋で採用したものになっています。(「新しい審査のイメージ(案)」、「原爆症認定に関する検討会の報告(概要)」、「与党プロジェクトチーム」の「原爆症認定問題のとりまとめ」は、当ページに掲載しています)
 特徴は、「これまでの原因確率による審査を全面的に改め、迅速かつ積極的に認定をおこなう」としたことです。そのうえで、被爆地点から3.5キロ前後で被爆して、ガンや白血病にかかった被爆者は、積極的に認定する。遠距離で被爆した人でも、100時間以内に爆心地付近に入市した人や、100時間を多少超えた入市でも爆心地付近に1週間以上滞在した人で、同じくガンや白血病などにかかった人は認定するとしています。
 「被爆者医療分科会」が開かれた21日、東友会は「被爆状況による線引きは認められない」と、厚労省前での緊急要請行動を全都によびかけ、「原告・被爆者が求めるのは被害の実態にみあった原爆症認定制度です!」の横断幕をかかげ、厚労省に要求しました。

「私たち原告・被爆者が求めるのは被害の実態にみあった原爆症認定制度です!」と書かれた相談幕を掲げ、厚労省に向かってこぶしを挙げる被爆者たち。
厚労省前での緊急要請行動
長方形に並べられた机に着席し話し合う人びと。
省内では医療分科会が

新しい審査のイメージ(案) 厚生労働省健康局
2008年1月17日

  1. 今後の原爆症認定の審査に当たっては、
    1. 被爆から長い年月が経過し被爆者が高齢化していること
    2. 放射線の影響が個人毎に異なること
    などに鑑み、これまでの原因確率による審査を全面的に改め、迅速かつ積極的に認定を行うこととする。
  2. このため、自然界の放射線量(1ミリシーベルト)を超える放射線を受けたと考えられ、被爆地点が約3.5キロメートル前後である者及び爆心地付近に約100時間以内に入市した者並びにその後1週間程度の滞在があった範囲にある者が以下の症例を発症した場合については、格段の反対すべき事由がなければ、積極的に認定を行う。(編集部注:「ミリシーベルト」は原文では「mSv」と表記)
  3. 具体的には、
    1. がん、白血病及び副甲状腺機能亢進症について
      放射線起因性を推認させる様々な事情を考慮して積極的に認定を行うとともに、こうした記録がない場合にあっても、申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。
    2. 放射線白内障について
      老人性白内障を除き、積極的に認定する。
    3. 心筋梗塞について
      放射線起因性が認められる心筋梗塞を認定する。
  4. また、これまでの認定の実態を踏まえて、幅広く審査会の審査を省略し、大臣が認定を行う。
  5. 2.以外の場合(編集部注:「積極的に認定を行う」とした条件に当てはまらない場合)についても、個別審査の上、総合的判断を加え、認定の判定を行う。

厚生労働省「原爆症認定の在り方に関する検討会」報告(2007年12月17日)の概要

 厚生労働省健康局長の下に設置された「原爆症認定の在り方に関する検討会」は、2007年9月に第1回会合を開いて以来、約4カ月間に7回の検討会を開催して、12月17日に「報告」をまとめました。資料として、その中の要点についての部分(原文抜粋)を掲載します。

見直しの方向性

  1. 被曝線量の評価について
    • 初期放射線については、DS86に替えて、DS02を導入すべき。
    • 残留放射線については、誘導放射線及び放射性降下物について、可能な限り、個人毎に移動経路や滞在時間に基づく線量計算の導入を検討すべき。
  2. 放射線起因性の判断について
    • がん、白血病及び副甲状腺機能亢進症については、被曝線量及び原因確率による評価とともに、急性症状等も評価して、総合的に判断を行うべき。
    • 心筋梗塞については、しきい値等の設定を検討すべき。その他の疾患については、今後とも知見の集積に努め、後日改めて評価を行うべき。
  3. 審査の迅速化及び審査の取扱いについて
    • 原因確率が例えば50%を超える場合には、分科会の審査を省略し、迅速に認定を行うこととすべき。
    • 原因確率が10%以上から50%未満である場合には放射線起因性を推認するに足る相応の資料があれば、総合判断の対象とすべき。
    • 原因確率が10%未満の場合においても、過去の資料等に基づき急性症状を考慮に入れるなど、総合判断の対象とすることとすべき。しかし、日常生活で自然界から浴びる放射線にも満たない被曝である場合はこの限りではない。
    • 経験則も踏まえた個別の認定を充実することができるように、分科会の審査体制を整備すべき。審査については、今後新たに得られる科学的知見も取り入れ、適宜見直しを行える体制を整備すべき。

与党プロジェクトが「とりまとめ」発表 弁護団が評価と意見

 自民・公明両党でつくる「与党原爆被爆者対策に関するプロジェクトチーム」は2007年12月19日、「原爆症認定問題のとりまとめ」を発表しました。

与党の見解

 発表に当たって、赤澤亮正事務局長が強調したことは、「原爆症で苦しんでいる被爆者を、政治的判断で現実的に救済すること」でした。
 そのために、「現実的救済につながっていない現行『原因確率論』を基本的に廃止するよう厚生労働省に言ってある」、急性症状があったかなかったかについて「証拠を出さなければ認めないということは許さない」、「予算は一定枠取ってある」などと述べました。

弁護団の意見

 原爆症認定集団訴訟弁護団の安原幸彦弁護士は、「与党とりまとめ」について次のように評価しました。

  1. 被爆者救済の理念がある。「政治的判断による現実的な救済措置を実現」するといい、「甚大な犠牲を二度と繰り返さないように」するという誓いが込められている。
  2. 典型症例から起因性を推定していく方式をとっている。これは日本被団協の考えと同じ方向性だ。
  3. 「反対すべき事由がなければ認定」という自動認定の考えを入れている。
  4. 典型症例に当たらない場合や線引きの外にある場合も、個別審査で救済する道を開いている。
  5. 医療分科会の改革にも踏み込んでいる。

問題点は、以下のように指摘しています。

  1. 典型症例の中に線引きを入れている
  2. 典型症例から肝臓疾患を除いている

「原爆症認定問題のとりまとめ」(抜粋)
2007年12月19日 与党原爆被爆者対策に関するプロジェクトチーム

 (前略)ここに原爆症認定問題につき、これまで厚生労働省が行ってきた認定行政に対し幾多の裁判例、世論より厳しい批判が出されたことを踏まえ、現実的救済につながっていない今の「原因確率論」を改め、長い間大変なご苦労を重ねられてきた被爆者の皆様のための政治的判断による現実的救済措置を実現するため、別紙により提示した新しい認定基準・範囲に即した積極的かつ迅速な認定を行うものとする。また医療分科会については今のあり方を改め、真に被爆者の実態を理解する者を加え、十分客観的かつ事実に即した審議を行うことができる審査体制とする。政府においては、この提言を真摯に受け止め、その完全実現に向け全力を傾注すべきである。(後略)

〈別紙〉原爆症認定について

  • 別添(〈対象疾患についての考え方〉)のいわゆる典型症例については、一定区域内(約3.5キロメートル前後を目安とする)の被爆者及び一定の入市した被爆者(爆心地付近(約2キロメートル以内)に約100時間以内に入市した被爆者および約100時間程度経過後、比較的直ちに約1週間程度滞留したもの)については、格段の反対すべき事由がなければ合理的推定により積極的かつ迅速に認定を行うものとする。
  • 上記以外の被爆者(いわゆる原爆手帳保持者)についても個別審査の上、総合的判断を加え、認定の判定を行うものとする。
  • 上記認定基準については、直近の科学的知見、専門家意見等を踏まえ、その後1年ごとを目途に必要に応じて見直しを行うものとする。

〈対象疾患についての考え方〉

  • 対象疾患については裁判例、放影研研究結果等を参考にし、以下の放射能起因性が認められるものにつき対象とすべきである。
  • 具体的な疾患例について以下のとおり。
    • 造血機能障害については白血病・骨髄異形成症候群(MDS)のみ
    • 細胞増殖機能障害については悪性新生物(がん)のみ
    • 内分泌腺機能障害については副甲状腺機能亢進症など
    • 水晶体混濁による視機能障害については老人性を除く白内障
    • また、その他、「小頭症」「熱症・外傷」については医療を受けている場合、対象となりうると考える。
    • その他、放射能起因性が認められるもの(心筋梗塞など)

 がんおよび白血病に関しては、放射能起因性が極めて高いことから、すべてのケースにおいて、最大限の配慮を行うものとする。