被爆者相談所および法人事務所
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ノーモア・ヒバクシャ東京第2次訴訟 高裁判決骨子および要旨

判決骨子

 慢性心不全(狭心症)についての原爆症認定の申請を処分行政庁から却下された被爆者について、これまでの知見によれば、放射線被曝と狭心症との問の関連性を認めることができるところ、その被曝態様やその後の病歴等に照らせば、同人は健康に影響がある程度の放射線被曝を受けていたと認められ、同人の狭心症が専ら原子爆弾放射線以外の原因によって発症したことを疑わせる事情は認められないとして、同人に対する上記却下処分を取り消した原判決を維持したものである。

判決要旨

1 事案の概要

 本件は、原子爆弾に被爆し被爆者健康手帳の交付を受けている被控訴人が、自らの慢性心不全(狭心症)について、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項の認定(原爆症認定)の申請をしたところ、厚生労働大臣(処分行政庁)がこれを却下したため、この却下処分の取消しを求めた事案である。原審では、被控訴人のほか5名の原告の行った同様の請求が併合されて審理され、被控訴人を含む原告らの各請求をいずれも認容する判決(被控訴人以外の1名の原告の一部の疾病に係る部分を除く)がされたところ、控訴人が被控訴人に係る判断を不服として控訴を提起した。

2 判決要旨

(1) 処分行政庁は、原爆症認定における放射線起因性につき、平成25年改定の「新しい審査の方針」に基づいて、同方針が積極的に認定すると定めた各疾病及び各被爆地点と入市状況の範囲に該当する申請については、格段に反対すべき事由がない限り、積極認定を行っているところ、この積極認定の被爆地点と入市状況の範囲から外れ、あるいは対象疾病から外れた場合については、経験則に照らして全証拠を総合検討し、原子爆弾の放射線が申請者である被爆者の疾病を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かによって、放射線起因性の要件を判定すべきものである。その際には、現時点においても、放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険については科学的に十分解明されていないという科学的な研究の到達度も踏まえ、総合的な考慮が行われるべきである。

(2) これまでの疫学的研究等の知見によれば、放射線被曝と狭心症との関連性を認めることができると、さらに、この関連性については、0.5グレイ(グレイ=吸収線量(放射線が物質との相互作用を行った結果、その物質の単位質量あたりに吸収されたエネルギー)の単位)を相当程度下回る値まで肯定することができると、また、狭心症のうちの安定狭心症であるからといって、一律に放射線被曝との関連性を否定することはできないと考えられる。

(3) 被控訴人は、爆心地から約4.2キロメートル離れた自宅近くで直接被曝したが、同日に雨を含む降下物を浴び、爆心地から3キロメートル以内の地点に赴き、100時間以内に早朝から夕方まで掛けて爆心地から500メートル付近まで往復し、その周辺に滞在し、壊れた水道から相当量の水を飲み、この間、爆心地近くで被爆した兄に付き添うなどしていたものであること、被控訴人が当時12歳の若年であったこと、その後の胃がん及び大腸がんへの罹患をはじめとする被控訴人の病歴、胃がん及び大腸がんにつき原爆症認定を受けていることなどを併せ考えれば、被控訴人は健康に影響がある程度の放射線被曝を受けていたと認められる。
 被控訴人は、狭心症に罹患してステント手術等を繰り返している。他方、同人は、高血圧、糖尿病、加齢という狭心症の危険因子を有しているが、それぞれの態様、程度を考慮すると、被控訴人の狭心症の発症に特に影響を与えていたとまではいえず、被控訴人の狭心症が専ら原子爆弾放射線以外の原因によって発症したことを疑わせる事情は認められない。

(4) 以上によれば、原子爆弾の放射線が被控訴人の狭心症を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるものであり、したがって、被控訴人の原爆症認定申請を却下した処分は違法であり、この処分を取り消した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がなく、棄却すべきである。