原爆症認定制度は今…… 新たな矛盾に悩む被爆者の声を受けて

「健康状況届」が負担になる被爆者が増加 東友会は厚生労働省に要望書を提出

 被爆者の罹った疾病が原爆症だと認定されれば、「医療特別手当」が支給されます。
 原爆症認定の条件として、援護法の「原子爆弾の傷害作用に起因する負傷又は疾病」(放射線起因性)と「現に医療を要する状態」(要医療性)の2つの要件を満たすことが求められます。

「放射線起因性」は緩和

 従来、「放射線起因性」の基準は極めて厳しく、認定は「狭き門」でした。心筋梗塞は対象外の病気でしたし、被爆距離が2キロ以遠ならがんでも却下されていました。
 しかし、原爆症認定集団訴訟とノーモア・ヒバクシャ訴訟の運動で「放射線起因性」の基準が大きく広がり、現在は、直接被爆では3.5キロ程度まで、残留放射線の影響を受けた入市被爆者にも認定の枠を広げることができました。

原爆症認定における「放射線起因性」の要件
被爆条件 指定病名
  1. 被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者
  2. 原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者
  3. 原爆投下より約100時間経過後から、原爆投下より約2週間以内の期間に、爆心地から約2キロメートルの地点に1週間程度以上滞在した者
  • 悪性腫瘍(固形がんなど)、白血病
  • 副甲状腺機能亢進症
  1. 被爆地点が爆心地より約2.0キロメートル以内である者
  2. 原爆投下より翌日までに爆心地から約1.0キロメートル内に入市した者
  • 心筋梗塞
  • 甲状腺機能低下症
  • 慢性肝炎・肝硬変
  1. 被爆地点が爆心地より約1.5キロメートル以内である者
  • 放射線白内障(加齢性白内障を除く)

「要医療性」は厳しく

 ところが、もう一つの要件である「要医療性」は逆に厳しくなりました。
 申請した年から3年に一度、「要医療性」があることを証明するために提出する「健康状況届」の基準を、厚生労働省が2014年に改定したためです。
 たとえば、がんの治療が終わった後、医師の指示によって定期的に経過観察を受けていた被爆者でも、5年(一部は10年)以上がんが再発していない場合は、「要医療性」を認めないという基準に変わったわけです。
 東京都内で「医療特別手当」を受けている被爆者は350人程度、毎年110人くらいが「健康状況届」の対象になりますが、東友会は毎年、このうちの100人程度のお手伝いを続けています。
 「医療特別手当」を継続できず「特別手当」に切り替えられる東京の被爆者は、基準改定前が毎年2~3人だったのに対し、改定後は20人台、10倍以上に増えました。

何のための認定か

 被爆者からは、 「健康管理手当の更新手続きがないのに、はるかに重病の医療特別手当に更新が残っているのはおかしい」「期限の5年が2カ月しか違わないのに、3年の差が出る場合もある」などの声が寄せられています。被爆者を支援・援護する目的の制度が、被爆者を苦しめることになっては本末転倒です。

理を尽くした要望を提出

 このため東友会は2017年6月、日本被団協と厚生労働省原爆被爆者援護対策室との協議の場で要望書を提出しました。
 おもな内容は、生涯治療を必要とする心筋梗塞、肝機能障害などと、がんの手術で人工肛門になった人など認定された病気の治療の障害が残っている人は、更新手続きを廃止すること、厚労省が指定しているがんなどの5年間は更新を不要にすること、というものです。

原爆症認定における「要医療性」と「医療特別手当」の更新・継続についての要望

  1. 厚生労働省は平成15(2003)年7月25日付の同省健康局長通知(健発第0725005号)で、被爆者の「健康管理手当」の更新期限を大幅に緩和しました。理由は、「受給者の高齢化が一層進行していること、健康管理手当の対象疾病中には病状が比較的固定化しているものもあることに鑑み、また受給者の便宜を図る観点から」とされています。

  2. 厚生労働省は平成26(2014)年3月20日付の同省健康局長通知(健発0320第1号)で、原爆症認定の施行規則第32条第2項の「要医療性」についての基準を定めました(下記「現在の厚労省の見解」)。「新しい審査の方針」で「積極認定」などとされた疾病のなかには、生涯、医学的管理が必要なものが多いからです。

  3. 東友会は、上記の経過をふまえ、(1)の当時よりもさらに高齢化が進んでいることに鑑み、「医療特別手当」の更新・継続についても「健康管理手当」と同様の理由で「健康状況届」の提出期間を延長または廃止し、「要医療性」を認めて手当の支給継続を要望しています。
内容 現在の厚労省の見解 東友会の要望
医療特別手当の継続についての一般的な判断  「現在行っている治療の内容」が認定疾病に対する治療として医学的に不適切なものでない限り、医療特別手当を継続する。  認定疾病の治療が継続している者、心筋梗塞、肝機能障害等と、生涯治療を必要とする疾病、熱傷瘢痕ですでに長期間要医療性が認められている場合、「要医療性」を生涯認定し、医療特別手当を継続してほしい。
悪性腫瘍、白血病などの再発確認までの期間における「健康状況届」の取り扱い 乳がん、腎盂がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がん他、再発が特に長期にわたる疾病は、根本治療の後、概ね10年以内、他は5年以内は医療特別手当を継続する。  乳がん、腎盂がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がん他、再発が特に長期にわたる疾病は、概ね10年以内は「健康状況届」の提出を不要とし、医療特別手当を継続してほしい。
認定疾病の治療によって後遺障害が生じている場合の判断 (とくになし)  手術等の根本的な治療により後遺障害がある場合、「要医療性」を生涯認定し、医療特別手当を継続してほしい。

厚労省の対応は

 この要望書に対して厚労省は検討を続けています。
 2017年12月4日におこなわれた厚生労働大臣と日本被団協、原爆症認定集団訴訟原告団、弁護団との定期協議では、福田祐典健康局長が、「更新の審査をしている都道府県の状況を調査すること、要医療性を認める期間を病名で一律に決めたことについて検証したい」と回答しています。

立って話している厚生労働大臣と、その左右に並んで座っている厚労省代表ら
2017年12月の大臣協議の場面

被爆者の立場で

 「一人ひとりの被爆者を大切に」をモットーとして相談活動をすすめてきた東友会は、様ざまな相談事例や被爆者の声をもとに、現行制度の改善を国や東京都に求めています。みなさんのお声をお寄せください。

被爆者の願いはみんなの力で実現しましょう 東友会相談所は全国と連携

 「一人ひとりを大切に」。東友会相談所のモットーです。機械的にマニュアル化せず、そのつどていねいに対応することで、被爆者の願っていることや制度の矛盾が見えてきて、それが被爆者運動の道しるべになるからです。
 解決のため一緒に考え、法律や条例などの条文にあたり、通知文書をチェックし、相談員同士で話し合います。「三人寄れば文殊の知恵」。気づかなかった解決への道がみつかることもあります。
 東友会への相談のほとんどは都内に住む被爆者や家族からですが、ウェブサイトを見て、他県からも、まれには海外からも寄せられます。
 東京で医療特別手当を受けた被爆者から他県の家族や知人への援助を頼まれることもあり、他県の被爆者相談所からも東友会に問い合わせがくることが増えています。東友会が、他県の相談所と連携して制度の改善を求めた最近の事例を紹介します。

おもわぬきっかけで改善できた事例:「必須でない書類の義務付け」の改善

 東友会が、2017年6月に出した厚生労働省宛の要望書には、原爆症認定申請にあたって「必須」とされていない「健康診断個人票」の提出を求めていることを改善してほしい、という項目もありました。東京都は適正な対応でしたが、一部に義務化していた県がありました。

他県からの電話がきっかけ

 この問題は、福岡市の被爆者相談員から東友会に問い合わせがあり、その中で明らかになったことです。調べてみると、他の県でも同様に「健康診断個人票」の提出を義務付けているところがあるとわかりました。
 被爆者が住んでいる県によって、原爆症認定申請のハードルが上がるのは見過ごせないと、東友会の要望書にこの要求を盛り込んだところ、厚労省は迅速に対応。要望した1カ月後に全国に改善のための通知を出しました。